一家離散に追い込んでおいて、なぜ好きだなんて言うの
「離してください!」

 葉月の手の甲に竹内のねっとりとした体温が伝わる。
 気持ち悪い! 葉月は慌てて手を引っ込めようとしたが、竹内が葉月の手を掴んで離そうとしない。

「葉月嬢、今からでも夫婦をやり直さないかい?」

 竹内の顔が葉月の手に近づいてくる。まるで手の甲にキスしようとしているみたいだ。

「やめて!」

 葉月はたまらず立ち上がった。
 やり直すって、何をだ。夫婦はおろか、会った事すらないのに!
 ゾワゾワした葉月は、力いっぱい竹内の手を振り払った。逃げるようにコーヒーショップを走り出る。

(なんなの?!)

 駅に集う人たちを避けながら、葉月は走る。その後ろから竹内が「待ってよボクの嫁ちゃぁん」と叫び追いかけてきている。

(やだやだ、気持ち悪い!)

 葉月はもはや泣きそうだった。何故こんな状況になっているのか理解できない。

「あ、ごめんなさい」

 人にぶつかった葉月は相手に謝罪して、相手の落とした荷物を拾い上げた。その間にも竹内の声がどんどん近づいて来る。
 そして――。

「葉月嬢、つぅかまぁえた!」

 中年男性とは思えない気持ち悪い声が、葉月の肩を掴む手と同時に、葉月を振り向かせた。
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