一家離散に追い込んでおいて、なぜ好きだなんて言うの
「やめ」
「やめてください、竹内さん」

 葉月が振り向くその瞬間、男性の声が竹内を遮った。振り向いた葉月の視界に、見慣れたスーツが入る。スラッとした長身の男性が、悪者を懲らしめる王子様みたいに、竹内の腕をひねり上げた。
 その王子様こそ――。

「上屋敷くん!」

 秀は竹内の腕を押しのけ、遠ざけた。代わりに葉月の肩を抱き、秀の元へと抱き寄せる。

「大丈夫ですか、葉月さん」

 秀の声は魔法みたいだ。葉月の恐怖と緊張が一気に解けていく。
 葉月は秀のスーツをきゅっと掴んだ。

「ごめ……怖くて……」

 言葉が出ない。一言もらすのがやっとだった葉月を、秀はさらに強く抱き寄せた。

「すみません葉月さん。別行動した事が仇となってしまいました。でも、もう大丈夫です」

 力強く言う秀は頼もしい。ひどい形相の竹内から身を隠すように、葉月は秀の胸に身を預けて目を閉じた。
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