一家離散に追い込んでおいて、なぜ好きだなんて言うの

例の件

「上屋敷専務、邪魔しないで頂けるかな?」

 竹内がでっぷりした顔を醜く歪めて、秀と葉月を睨んでいる。秀は葉月を抱き寄せたまま、落ち着き払った声で言った。

「彼女は関係ありません」
「関係ない? 上屋敷専務、あなたこそ関係ないだろう。ボクはビジネスじゃあなく、葉月嬢と個人的な話をしているだけだ!」
「彼女が嫌がっています。お引き取りください」

 冷静に対処する秀は格好良かった。救世主だ。葉月はそう思った。だけど竹内は、秀を小馬鹿にしたように笑い飛ばす。

「へぇえ、上屋敷専務。良いのかなぁ、そんなことを言って。ボクを敵に回したら、困るのはキミの方じゃないのかい?」

 竹内はニタニタ笑いながら、胸ポケットから出したUSBメモリをちらつかせる。

「当時の材料不正の証拠はボクが持ってるんだぞ」
「……材料、不正?」

 何の話かわからず、葉月は秀を見上げた。秀は黙って竹内のUSBを見つめている。答えない秀の代わりに、竹内が「そうだよ、葉月嬢。あの不正は全部ミナモトが主導したんだ!」と自信満々に叫んでいた。
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