一家離散に追い込んでおいて、なぜ好きだなんて言うの
「出来るわけないでしょう、葉月。もう無理なの。高校は辞めるしかないのよ」
「や、辞める……?」

 血の気が引いて、葉月は倒れそうになった。
 名門白薔薇学院。ほとんどの生徒が社長や政治家の家系である。白薔薇学院に通えること自体がステータスでもあるが、同時に会社が倒産した今、葉月は高校に在籍するだけの力が無いとも言える。

「じゃ、じゃあ、私は、公立高校へ行くと言うのですか」

 信じられない。由々しき事態だ。
 青ざめる葉月に対し、父は首を横に振った。

 ――違うのかしら。私、辞めずに済むの?

 そんな葉月の期待を父が打ち砕く。

「そうじゃあない。違うのだ、葉月。高校を辞めて、働くしかないのだ」

 申し訳無さそうな父の顔。
 泣き崩れる母。
 黙ったまま顔をそむける家政婦。
 葉月の視界がぐにゃりと歪んでいく。

「…………え?」
「高校にはもう通わせられない。働くのだよ、葉月」

 父がだめ押しの一言を放つ。
 それを聞いた葉月の意識は、真っ暗闇の中に落ちていった。
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