一家離散に追い込んでおいて、なぜ好きだなんて言うの

あれから

 駅での一件以来、秀と葉月はしばらく有名人になってしまった。大騒ぎしていた竹内の動画がネット上で拡散されたからだ。
 世間からバッシングを受けた竹内。そして、公開プロポーズが話題になった秀と葉月。秀が有名企業「上屋敷ホールディングス」の役員であったことも、話題になった原因の一つだろう。

 それから一年。

「葉月さん、珈琲飲みますか?」

 秀は相変わらず朝食後、珈琲を淹れている。

「秀くん、私、カフェインは……」
「大丈夫です。カフェインレス珈琲ですから。お義父さん、お義母さんは普通の珈琲で良いですか?」
「ああ、ありがとうございます、専務」
「専務はやめてください、お義父さん。親子なんですから」
「はは、そうは言ってもなかなか慣れませんね。……では、秀、くん。ありがとう」
「はい、お義父さん」

 秀と葉月の自宅。
 前日に料亭でパーティーをして、その後、葉月の両親は秀と葉月の住むマンションに一泊した。両親を泊めたのは、葉月と両親が好きなだけお喋り出来るようにという秀の配慮だ。
 なんのパーティーだったのかと言うと……。

「葉月、つわりはもう大丈夫なの?」

 葉月の母が葉月に尋ねる。

「うん。もうピークは去ったから」

 葉月は笑顔で下腹部を撫でた。
 そう。秀と葉月の第一子妊娠を祝うパーティーだったのだ。
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