一家離散に追い込んでおいて、なぜ好きだなんて言うの
 炊事場の仕事を終えた葉月はロビーの掃除を始めた。端に置いてある新聞ラックの新聞を今日の物に取り換える。

「……っ!」

 葉月は今日の新聞の一面に大きく書かれた見出しを読んで絶句した。

『上屋敷ホールディングス、KURODAを子会社化』

 上屋敷ホールディングス。
 葉月の父の会社、ミナモトコーポレーションを倒産に追い込んだ、まさに元凶。上屋敷秀の祖父が会長を、父が社長を務める大企業だ。

(うちを倒産させておいて、向こうは未だに成長してるだなんて)

 新聞をぐしゃぐしゃにしてやりたい衝動を抑え、葉月は唇をかんだ。
 嘆いたところで自分の生活が改善するわけではない。世の中、勝者と敗者しかいないのだ。葉月は敗者だっただけ。もう住む世界が違うのだから、気にするだけ損だ。

(でも、悔しい……)

 葉月は自分の腕をつねって無理矢理心を落ち着かせた。考えては駄目。心を無にして黙々と仕事を続ける。
< 8 / 61 >

この作品をシェア

pagetop