小羽根と自由な仲間達
試験が始まる直前の、部活動の時間。

「失礼します」

部室である調理実習室に入ると、そこにはいつも通り、先輩達がテーブルについていた。

「おっ、来たな後輩君!いらっしゃい!」

今日も天方部長は、片手に筆を持って何かを描いていた。

また懲りずに…。今度は何を描いてるんだろう。

と言うか、試験勉強は?

「丁度良かった後輩君。自分の芸術を見てくれよ」

「芸術は良いですけど…。天方部長、試験勉強の方は捗ってるんですか?」

「その試験勉強について、芸術に変えてみたんだよ。発想の転換って奴?」

…はい?

何のことかと思って、天方部長の差し出す紙切れを覗いてみた。

半紙に筆で、絵を描いているのかと思ったら、今日は絵ではなく、文字。

「書道に挑戦したんですか…?それにしては字が汚いですけど…」

「言うねぇ君。でも、書道ではないんたよ。まぁ書道も齧ってるようなもんだが、これは俳句だ」

は、俳句?

「芸術は絵だけじゃないだろ?やっぱり芸術研究部の部長たる者、率先して幅広い分野の芸術を嗜むべきだと思ってな」

「成程…。台詞だけは一人前ですね…」

「俳句も立派な芸術の一つだろ?ってな訳で、これが自分の作品の数々だ。テーマは試験勉強。タイムリーなテーマだろ?」

試験勉強で一句ですか…。すぐには思いつきませんね。

天方部長は、既に何枚もの半紙に、いくつもの俳句を書いていた。

こんな短時間でこんなに思いつくなんて、天方部長は見かけによらず俳人なんですね。

どれどれ、ではまず一枚目…。

「えぇと…。『一夜漬け ヤマが外れて 大撃沈』」

「よくあるだろ?そういうこと」

…そんなドヤ顔して言われても。

僕はありません。一夜漬けでヤマを張ったことがありませんから。

「次…。『あと5分 目が覚めたら 既に5時』」

「これもよくあるだろ?」

「…ちょっと意味が分からないんですけど、解説してもらって良いですか?」

何があと5分なんですか?

「ほら、一夜漬けあるあるだよ。深夜に勉強してたら、不意に眠気に襲われるだろ?で、『あと5分くらい寝たら始めよう』と思って居眠りすると、気付いた時には朝の5時くらいにタイムスリップしてるあの現象」

それは天方部長だけなのでは?

初めて聞きましたよ。そんな謎現象。

一夜漬けあるあるの話をされても、僕には分かりませんよ。

「じゃあ次…。『勉強を 始めるつもりが 大掃除』」

「これはさすがに後輩君も分かるだろ?」

…さっきから何なんですか。そのドヤ顔は。

「分かりませんよ…。何で勉強が掃除になるんですか?」

「え?よくあるじゃん。一夜漬けで勉強するつもりで机に座ったら、突然部屋の中が散らかってるのが気になって、掃除を始めたくなるだろ?」

…あります?そんなこと。

僕自身は全然…そんな経験はありませんけど…。
< 103 / 384 >

この作品をシェア

pagetop