小羽根と自由な仲間達
日常生活で、地面に埋まることってあります?

非日常でもなかなかありませんよ。そんなこと。

しかも、無駄に絵のクオリティが高いせいで。

一度「地面に埋まってる佐乱先輩」だと言われると、もうそれにしか見えない。

恋人に、このような奇怪な似顔絵を描かれてしまった佐乱先輩は、どんな反応なんだろう。

僕は、そっと久留衣先輩の隣に座っている佐乱先輩に視線を向けた。

「…佐乱先輩…」

「…こっちを見るなよ」

あ、済みません…。

佐乱先輩は苦い顔で、久留衣先輩の描いた似顔絵を見つめていた。

「もっとまともなものを描けよ、って言っても聞かないからな…。『まともなものって何?』とか言って…」

…言いそう。

「もう好きにさせてるんだよ。俺は俺で、息抜きにデッサンを描いてる」

佐乱先輩は、くるくると鉛筆をペン回ししながら言った。

佐乱先輩の手元には、また別のモチーフを描いたデッサンが。

息抜きに描いた、と言う割には、非常に上手い。

今度は、調理実習室にあったやかんと、菜箸をモチーフにしてるようだ。

上手いなぁ…。今のところ佐乱先輩だけが、まともに芸術研究部をやってるような気がするよ。

…まぁ、料理研究部の時もそうだったけど…。

…それはそれとして。

「…先輩方、芸術研究部としての活動も結構ですが、結局、試験勉強の方は…」

と、僕が匂わせると。

先輩方の反応は。

「さーて。今度は別の俳句を考えるかなー」

「棒人間とへのへのもへじのミックスに挑戦しましょうかね」

「李優、見て見てー。こっちはね、李優が犬に追いかけられてる時の似顔絵」

「そんなもの描くなよ…。…あと、俺は一応真面目に試験勉強やってるぞ」

…とのこと。

やっぱり、まともに学生としての自覚があるのは、僕と佐乱先輩だけのようだ。
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