小羽根と自由な仲間達
第8章
――――――中間試験が終わり、全国模試も終わって、しばらく経った頃。
とある日の放課後、部室である調理実習室に向かうと。
「失礼しま…うわっ…」
「…」
「それ」を目にするなり、僕はびっくりしてその場に立ち尽くしてしまった。
な、何がいるのかと思った…。
そこにいたのは、調理実習室の床に蹲って、ずーん、と暗いオーラを発する…。
「あ…天方部長…?」
「…」
芸術研究部の部長である天方部長が、死んだような顔で床に蹲っていた。
どうしたんだろう。こんなこと初めてだ。
だ、大丈夫だろうか?
「ど…どうしたんですか?」
僕は、慌てて天方部長に駆け寄った。
この間の僕みたいに、貧血でも起こしたのだろうか。目眩とか?
それとも…持病の発作か何か?
この時僕は、てっきり天方部長が体調を崩して、床に蹲っているのだと思っていた。
…だから。
「ねぇねぇ、李優、見てー。上手でしょ?」
「ん?あぁ、そうだな…。って、それは何の絵なんだ?」
「えっとね、李優がカピバラに襲われてる時の似顔絵」
「…何で俺、カピバラに襲われてんの?」
「ライオンやトラではなく、敢えてカピバラというところに萌音さんのセンスを感じますね」
「えへへー」
久留衣先輩や佐乱先輩、弦木先輩が、自由帳を囲みながら、あまりにも呑気に話しているのを見て。
この人達は、今の天方部長の状態が目に入ってないのかと、信じられない気持ちになった。
眼の前で天方部長が、こんなに具合が悪そうにしてるのに。スルーなんですか?
それは、あまりにも薄情というものなのでは?
久留衣先輩は、クーピーで描いたカピバラに襲われる佐乱先輩の似顔絵を、自慢げに披露していた。
相変わらず上手いですね。でも、今はそれどころじゃないでしょう。
「せ、先輩方。何をやってるんですか?」
僕は、呑気にお喋りする久留衣先輩達に声をかけた。
「何って…。萌音さん画伯の作品を見てます」
そ、そうですか。
「そんなことしてる場合じゃないでしょう。だって、天方部長が…」
こんなに具合が悪そうに蹲ってるのに、よく無視して似顔絵なんか眺めていられますね。
この間の僕じゃないけど、すぐに保健室に連れて行って、
「何か誤解しているようですね、小羽根さん」
と、弦木先輩。
…え?
「別にその人は、体調が悪くて蹲ってる訳じゃありませんよ」
「え、」
「自業自得なので、放っておいて結構です」
じ…自業自得って、それはどういう…。
「…君ら、薄情だな。部長に対する優しさはないのか?」
ずっと黙っていた天方部長が、低い声で呟いた。
あ、口利いた…。
とある日の放課後、部室である調理実習室に向かうと。
「失礼しま…うわっ…」
「…」
「それ」を目にするなり、僕はびっくりしてその場に立ち尽くしてしまった。
な、何がいるのかと思った…。
そこにいたのは、調理実習室の床に蹲って、ずーん、と暗いオーラを発する…。
「あ…天方部長…?」
「…」
芸術研究部の部長である天方部長が、死んだような顔で床に蹲っていた。
どうしたんだろう。こんなこと初めてだ。
だ、大丈夫だろうか?
「ど…どうしたんですか?」
僕は、慌てて天方部長に駆け寄った。
この間の僕みたいに、貧血でも起こしたのだろうか。目眩とか?
それとも…持病の発作か何か?
この時僕は、てっきり天方部長が体調を崩して、床に蹲っているのだと思っていた。
…だから。
「ねぇねぇ、李優、見てー。上手でしょ?」
「ん?あぁ、そうだな…。って、それは何の絵なんだ?」
「えっとね、李優がカピバラに襲われてる時の似顔絵」
「…何で俺、カピバラに襲われてんの?」
「ライオンやトラではなく、敢えてカピバラというところに萌音さんのセンスを感じますね」
「えへへー」
久留衣先輩や佐乱先輩、弦木先輩が、自由帳を囲みながら、あまりにも呑気に話しているのを見て。
この人達は、今の天方部長の状態が目に入ってないのかと、信じられない気持ちになった。
眼の前で天方部長が、こんなに具合が悪そうにしてるのに。スルーなんですか?
それは、あまりにも薄情というものなのでは?
久留衣先輩は、クーピーで描いたカピバラに襲われる佐乱先輩の似顔絵を、自慢げに披露していた。
相変わらず上手いですね。でも、今はそれどころじゃないでしょう。
「せ、先輩方。何をやってるんですか?」
僕は、呑気にお喋りする久留衣先輩達に声をかけた。
「何って…。萌音さん画伯の作品を見てます」
そ、そうですか。
「そんなことしてる場合じゃないでしょう。だって、天方部長が…」
こんなに具合が悪そうに蹲ってるのに、よく無視して似顔絵なんか眺めていられますね。
この間の僕じゃないけど、すぐに保健室に連れて行って、
「何か誤解しているようですね、小羽根さん」
と、弦木先輩。
…え?
「別にその人は、体調が悪くて蹲ってる訳じゃありませんよ」
「え、」
「自業自得なので、放っておいて結構です」
じ…自業自得って、それはどういう…。
「…君ら、薄情だな。部長に対する優しさはないのか?」
ずっと黙っていた天方部長が、低い声で呟いた。
あ、口利いた…。