小羽根と自由な仲間達
…数日後。

放課後の調理実習室にて。

「はー…。だるっ…」

天方部長は調理台に肘をついて、いかにも面倒臭そうに呟いた。

…これが部長の態度ですか。

「お前…。今は部活の時間なんだぞ。部活動しろよ」

調理器具を目の前に並べて、デッサンを描いていた佐乱先輩が口を尖らせた。

その通りですよ。

「そうですよ。俺だって、今日も熱心に棒人間を描いてるんですからね」

弦木先輩の手元のスケッチブックには、大小の棒人間がびっしり。

その奇妙な絵にも、段々慣れてきましたね。

棒人間って…そんな熱心に描くようなものでしたっけ…?

「萌音も頑張って描いてるよ。ほら」

久留衣先輩は、自慢げに自由帳を見せてくれた。

相変わらず、クーピーで描いた佐乱先輩の似顔絵ですね。

「えぇと…これは何の似顔絵なんですか?」

「李優がぬりかべに押し潰されてる時の似顔絵」

「…そ、そうですか…」

どういうシチュエーションなんですか。それは。

豆腐みたいな大きなぬりかべに挟まれて、苦悶の表情を浮かべる佐乱先輩の似顔絵を見て。

佐乱先輩本人は、非常に苦い顔をしていた。

今どんな気持ちなんでしょうね…。自分の可愛い恋人に…自分がぬりかべに潰される似顔絵(しかも上手い)を描かれて…。

しかし佐乱先輩は、文句は言わなかった。優しい。

僕自身も、スケッチブックに描いていた『ルティス帝国英雄伝』のワンシーン。

この絵も、だいぶ完成に近づいてきた。

あともう少し、と言ったところだろうか。

僕にしては、結構頑張った方。

とはいえ、加那芽兄様の描く絵に比べたら、子供の絵同然だけど…。

部員達は三者三様、芸術研究部の名に相応しく、それぞれの芸術に専念しているというのに。

「はー。だるっ…」

「…」

部長である天方部長は、肘をついて同じ言葉を繰り返していた。

…この体たらくよ。

芸術研究部じゃなかったんですか、僕達。芸術研究しましょうよ。

「天方部長…。だらしないですよ」

「ふーんだ。後輩君には分からないんだ。あとちょっとのところで、『frontier』記念ライブのチケットを逃してしまった自分の気持ちなんて…」

「…」

まーた不貞腐れちゃってる。

「またそれかよ。いつまで言ってんだお前は」

これには、佐乱先輩もお小言。

「いい加減諦めろよ。くどいぞ」

「ふん!李優君には分からないもんね。自分がどれほど、『frontier』のライブを楽しみにしてたか!」

あぁ、意地になっちゃった…。
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