小羽根と自由な仲間達
結果。

半泣きで二、三回ジャンプして、何とか加那芽兄様の手からノートを取り返した。
 
しかし、その時には既に、ノートは半分以上読まれてしまっていた。

「今、面白いところだったのに…」

「ひっくひっく…。酷いです、加那芽兄様…」

いつもは優しい加那芽兄様だけど、今だけは悪魔の化身に見えた。

こんな酷いことあります?

誰だって思春期の頃、自作小説の設定集ノートを作ったことはあるでしょう?

そのノートを、自分で眺めて楽しむ分には良いけど。

家族に見つかって、半笑いで「ねぇねぇこれお前のノートなんだろ?」って聞かれたら、どんな気持ちになるか。

恥ずかしくて死にそう。

「え?何で酷いの?面白かったのに」

「か、勝手に読まないでください…」

「特に、主人公とヒロインの微妙な関係性が堪らないね。天然で鈍い主人公に、ヒロインが呆れる描写がいかにも少女漫画のようで、」

「い、いいい言わないでください!」

「小羽根はああいう恋愛が好きなの?」

…。

…穴があったら入りたい。

「加那芽兄様の…意地悪っ…」

こうなったら、僕も加那芽兄様の黒歴史を暴くしかない。
 
加那芽兄様…黒歴史って、あるんですか…?

「僕はもう…明日から自分の部屋に、南京錠をかけます…」

「ごめんごめん。いや、勝手に盗み読みするつもりじゃなかったんだよ?」

ごめんごめん、で許される範囲を超えてるんですよ。

「小羽根が居るかなーと思って部屋を訪ねてみたら、まだ帰ってなかったから…。…本当は、すぐに出ようと思ったんだよ?」

「…」

「そうしたら、机の上にノートがあって…。小羽根の忘れ物なのかな、って何気なく手に取ってみたら…」

僕の中二病ノートだった訳ですね。

自分の部屋だからと安心しきって、ノートを机の上に置き去りにしたのが間違いだった。

油断しちゃ駄目なんですよ。こういう不測の事態が起きるから。
 
中二病ノートは、決して誰にも見られないよう、しっかり封印しておかなければならない。

さもなければ、今の僕みたいな目に遭いますからね。

思春期の皆さん、中二病ノートの隠し場所には気をつけましょう。

加那芽兄様は、古今東西、様々な本を読んできた人だ。

一般的に名作と呼ばれる本は、一通り読んできたと言っても過言ではない。

よりによって、そんな加那芽兄様に読まれるなんて。

小学生が書いた拙い散文を、内心笑いながら読んでいたのかと思うと。

…何だろう。涙が込み上げてきた。

「うぅ…恥ずかしい。穴があったら入りたい…」

「何で?面白かったよ。ついつい時間を忘れて読み耽ってしまった」

「お、面白くないですよ…」

絶対お世辞。お世辞に違いない。

「これ、続きはないの?」

「も、もう書きませんよ…」

「どうして?勿体ないよ、こんなに面白いのに」

だから、面白くなんてないです。
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