小羽根と自由な仲間達
その時の僕はきっと、あんまりびっくりして、目を白黒とさせていたに違いない。
そんな僕の身体をポンポンと軽く叩きながら、加那芽兄様は再度繰り返した。
「大丈夫かい?小羽根…」
「あっ…えっ…。は、はい…」
狼狽えながら、何とか返事をした。
加那芽兄様が受け止めてくれたお陰で、僕は無様に床にすっ転ばずに済んだのだと気づいた。
…危ないところだった。
で、でも。
「か、加那芽兄様…。どうしてここに…?」
「それは私の台詞だよ。私の書庫の扉が開いているようだったから、誰か中にいるのかと思って入ってきてみたら…」
えっ。
ここ、加那芽兄様の部屋だったのか。
そうとも知らず、勝手に入り込んで、勝手に本を触ってしまった。
まるで、自分が他人の家に勝手に侵入して、家の中のものを物色してしまったかのような感覚に陥った。
自分がとんでもないことをしてしまったと気づいて、僕は一瞬で青ざめた。
「ご、ごめんなさい…」
謝っても許してもらえることじゃないかもしれないが、とにもかくにも謝らない訳にはいかなかった。
知らなかったとはいえ、実質この家の当主である加那芽兄様の部屋に、勝手に侵入し。
挙げ句、加那芽兄様の私物に、勝手に触ってしまったのだ。
こんな手癖の悪い子供は要らない、ここから出ていけ、と命じられるのではないかと、僕は恐怖に震えた。
ようやく、居心地の良い場所にやって来たのに。ようやくこの家に慣れて、自分の居場所を手に入れたのに。
ほんのちょっと好奇心を働かせただけで、こんな下らないことで、自分の身を危うくするなんて。
自分の愚かさを激しく呪ったが、後の祭りだった。
「ごめんなさい、加那芽兄様…!」
叱られるんじゃないか。追い出されるんじゃないかとびくびくしながら、懸命に謝った。
すると、加那芽兄様は。
「え?いや…責めてる訳じゃないよ。謝る必要はない」
そう言って、加那芽兄様は僕の頭を撫でた。
…え…。
「そんな泣きそうな顔をしなくて良いんだよ。ここは君の家なんだから」
「か、加那芽兄様…。…怒ってますか…?」
「怒ってないよ。君を怒るはずがないだろう?」
よしよし、と頭を撫でながら、加那芽兄様はそう言った。
てっきり怒られるものと思っていたから、僕はなんと言って良いのか分からず、ポカンとしてしまった。
「これが欲しかったのかい?」
加那芽兄様は、僕がさっきまで必死に取ろうとしていた雑誌に手を伸ばし、軽々と取ってくれた。
「あ、は、はい…。だ、駄目でしたか…?」
「駄目ではないけど…。これは外国語の化学雑誌だから、今の小羽根にはまだ難しいんじゃないかな」
「えっ…」
加那芽兄様に雑誌を取ってもらって、その表紙を見てからようやく気づいた。
…これ、外国語で書いてある。
後で知ったのだが、その雑誌は海外の化学論文などを掲載した雑誌だったらしく。
当然、僕に読めるはずがなかった。
…読めない本を、踏み台から転げ落ちそうになりながら必死に取ろうとしていたなんて…。
…一体何だったんだ。さっきまでの僕の苦労は。
そんな僕の身体をポンポンと軽く叩きながら、加那芽兄様は再度繰り返した。
「大丈夫かい?小羽根…」
「あっ…えっ…。は、はい…」
狼狽えながら、何とか返事をした。
加那芽兄様が受け止めてくれたお陰で、僕は無様に床にすっ転ばずに済んだのだと気づいた。
…危ないところだった。
で、でも。
「か、加那芽兄様…。どうしてここに…?」
「それは私の台詞だよ。私の書庫の扉が開いているようだったから、誰か中にいるのかと思って入ってきてみたら…」
えっ。
ここ、加那芽兄様の部屋だったのか。
そうとも知らず、勝手に入り込んで、勝手に本を触ってしまった。
まるで、自分が他人の家に勝手に侵入して、家の中のものを物色してしまったかのような感覚に陥った。
自分がとんでもないことをしてしまったと気づいて、僕は一瞬で青ざめた。
「ご、ごめんなさい…」
謝っても許してもらえることじゃないかもしれないが、とにもかくにも謝らない訳にはいかなかった。
知らなかったとはいえ、実質この家の当主である加那芽兄様の部屋に、勝手に侵入し。
挙げ句、加那芽兄様の私物に、勝手に触ってしまったのだ。
こんな手癖の悪い子供は要らない、ここから出ていけ、と命じられるのではないかと、僕は恐怖に震えた。
ようやく、居心地の良い場所にやって来たのに。ようやくこの家に慣れて、自分の居場所を手に入れたのに。
ほんのちょっと好奇心を働かせただけで、こんな下らないことで、自分の身を危うくするなんて。
自分の愚かさを激しく呪ったが、後の祭りだった。
「ごめんなさい、加那芽兄様…!」
叱られるんじゃないか。追い出されるんじゃないかとびくびくしながら、懸命に謝った。
すると、加那芽兄様は。
「え?いや…責めてる訳じゃないよ。謝る必要はない」
そう言って、加那芽兄様は僕の頭を撫でた。
…え…。
「そんな泣きそうな顔をしなくて良いんだよ。ここは君の家なんだから」
「か、加那芽兄様…。…怒ってますか…?」
「怒ってないよ。君を怒るはずがないだろう?」
よしよし、と頭を撫でながら、加那芽兄様はそう言った。
てっきり怒られるものと思っていたから、僕はなんと言って良いのか分からず、ポカンとしてしまった。
「これが欲しかったのかい?」
加那芽兄様は、僕がさっきまで必死に取ろうとしていた雑誌に手を伸ばし、軽々と取ってくれた。
「あ、は、はい…。だ、駄目でしたか…?」
「駄目ではないけど…。これは外国語の化学雑誌だから、今の小羽根にはまだ難しいんじゃないかな」
「えっ…」
加那芽兄様に雑誌を取ってもらって、その表紙を見てからようやく気づいた。
…これ、外国語で書いてある。
後で知ったのだが、その雑誌は海外の化学論文などを掲載した雑誌だったらしく。
当然、僕に読めるはずがなかった。
…読めない本を、踏み台から転げ落ちそうになりながら必死に取ろうとしていたなんて…。
…一体何だったんだ。さっきまでの僕の苦労は。