小羽根と自由な仲間達
僕のピンチを救ってくれたのは。

「か、加那芽兄様…」

礼服に身を包んだ加那芽兄様が、お客様ににっこりと微笑みかけていた。

い、いつの間に…。

それよりこの人…ルレイア卿って言うんですか?

聞いたことがあるような…ないような…。

「ん?兄様?ってことは…」

「弟に何か御用で?」

「あー。これ、あなたの弟なんですか」

これって言わないでください。

やっぱり、知らずに勧誘しようとしてたんですか?

「いえ。この顔は才能がありそうなので、ウチのお店で使おうかと思ったんですけど」

「そうですか。しかし、私の弟はまだ未成年で、学校に在学中ですから」

「ふーん…。まぁ、確かに未成年を使うと、小うるさい取り締まりに引っ掛かるんですよね」

と言うなり、ルレイア卿はぱっと僕の手を話してくれた。

「仕方ない。じゃ、今回は諦めますよ」

よ、良かった。助かった…。

…え?今回は?

次回があるんですか?

「でも、成人したら是非俺のもとに来てくださいね。あなたなら、人気ホストになれますよ」

ぐっ、と親指を立てて言ってくれた。

それはどうも。

こんなに嬉しくない褒め言葉も存在しない。

「それじゃ、ご縁があれば、またいつか」

そう言って、ルレイア卿は手を振りながら、人混みの中に消えていった。

た…。

…助かった…。

「…はぁー…」

へなへな、とその場に座り込みそうになった。

本日一番の危機を、何とか乗り越えることが出来たようだ。

…加那芽兄様のお陰で、ですけど。 

「大丈夫かい?小羽根…」

脱力してしまった僕を、加那芽兄様が支えてくれた。

「うぅ…。ありがとうございます…」

「まさか、ルレイア卿に絡まれてるとはね…。小羽根が食べられてしまうんじゃないかと、肝を冷やしたよ」

あの人は何なんですか。猛獣か何かの類ですか?

まぁ、危うく食べられるところだったので、あながち間違ってなさそうですが…。

加那芽兄様が助けてくれなかったら、どうなっていたことか。

「あの人に迂闊に近寄ってはいけないよ。あの人がその気になれば、この会場にいる全員が地獄送りになるからね」

猛獣じゃなくて、死神の類ですか?

そんな人に絡まれるなんて…。なんて不運なんだ…。

「僕が近寄ったんじゃなく…その…」

「分かってるよ。きっと、彼のお眼鏡に叶ったんだろうね」

そうなんですか。…嬉しくないですけど…。

「危ないところだったよ。小羽根が可愛いのは言うまでもない事実だけど、小羽根が外国に行っちゃったら会えなくなるからね。絶対駄目」

加那芽兄様も、真面目な顔をして何言ってるんですか。

助けてくれたのは有り難いですけども。
< 290 / 384 >

この作品をシェア

pagetop