小羽根と自由な仲間達
『劇団スフィア』の公演を観た後。

僕は、公演パンフレットを購入し、大満足。

ほくほく。

「ご満悦のところ悪いが、小羽根」

「あ、はい何ですか?」

済みません。ちょっと浮かれてました。

「そろそろ良い時間だし、何処かで食べて帰らないか?」

「そうですね…分かりました。良いですよ。何処かおすすめのお店、ありますか?」

「おすすめと言うか…。大抵、ここで『劇団スフィア』を観た後は、萌音と一緒に食べに行く店があるんだが…」

「じゃあ、そこにしましょう」

僕は何でも良いですよ。

「ただ、小羽根の口に合うかは分からないな」

「え、そうですか…?」

「まぁ、無理そうだったらそう言ってくれ」

…?そんなに好き嫌いが別れるお店なんですか?

僕、余程癖の強い食べ物…パクチーとかくさやとか…でなければ、大抵のものは食べられますけど…。

李優先輩に連れられて、向かったお店は。

某、有名牛丼チェーン店。

「…ここだ。…来たことある?」

「…ないですね」

「やっぱり…。お前、上流階級って感じだもんな」

僕は上流階級じゃないですよ。無悪家が上流階級なだけで。

僕はただの養子ですから。

「…やっぱり口に合いそうにないから、やめとくか?」

「いえ、そんな…。大丈夫です。僕の舌は馬鹿なので」

加那芽兄様に勧められて、色々な国の色々な高級料理を食べたことがあるけど。

美食家な加那芽兄様と違って、子供舌で、おまけに貧乏舌な僕は、味の違いなんてよく分かっていないのである。

情けないことに。

多分、スーパーの外国産特売牛肉でも、「これはA5ランクの和牛肉ですよ」と言われたら、疑わずに食べてると思います。

…情けないことに。

だから、チェーン店でも全然平気。

むしろ、こういう機会でもないと食べることがないから、食べてみたい。

「是非チャレンジさせてください」

「…分かった。じゃあ入るか」

宜しくお願いします。

これが噂の牛丼屋さん…。何だか活気があって賑やかですね。

どうやら、カウンター席とテーブルの席の二種類があるようだ。

カウンター席には、仕事終わりのサラリーマンやOLさんが多く見られ。

テーブル席には、恐らく部活が終わったばかりなのだろう、学生さん達が楽しそうにお喋りしながら、牛丼を食べていた。

男も女も、若い人もちょっと年配の方も。

皆して、美味しそうにどんぶりの牛丼を頬張っている。

おぉ…。これが噂の…。

「何だか凄いですね…。異世界に迷い込んだような気分です…」

「そんな大袈裟な…。ただの牛丼屋だろ?」

その「ただの牛丼屋」に、これまで一度も来たことがなかったんですよ。

自分の世界の狭さを実感しますね。

しかし、初めての場所であるだけに、勝手が分からない。

「ど、どうやって注文すれば良いんでしょう?」

何やら皆さん、レジ横のタッチパネルをタップしているようですが…。

「あれは持ち帰り専用だから。店内注文はこっち」

と、李優先輩が手招きした。

牛丼屋ド素人の僕は、大人しくついていきましょう。
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