小羽根と自由な仲間達
最初に僕を引き取ってくれた親戚の家には、数ヶ月もいなかったと記憶している。

妾の子なんて育てたくないとばかりに、すぐに僕はまた別の家に引き取られた。

こちらも、『無悪グループ』の分家の一つだった。

そちらの家族も、最初に引き取られた家族と大して変わらなかった。

どうやら二つ目の家族は、最初の家族に無理矢理僕を押し付けられただけだったみたいで。

二つ目の家には、一ヶ月どころか、ほんの二、三週間しかいなかった。

その後、今度はまた別の家族のもとに引き取られて…。

短期間のうちに、そんなことが何度も繰り返された。

僕は、さながら厄介な荷物を押し付け合うみたいに、何軒もの家をたらい回しにされた。

どの家族も、僕を守ってはくれなかった。愛してはくれなかった。

幼稚園にも保育園にも通わせてもらえず、一日中、物置みたいな小さな部屋に押し込められ。

衣服も、食事も満足に与えられなかった。

あの頃は本当に辛くて、苦しくて…。どんなにか、母のいるあの小さな家に帰りたいと望んだことだろう。

そんな辛い日々の中で、それまで僕か抱いていた子供っぽい幻想は、粉々に砕け散った。

母が亡くなった今、この世に自分を愛してくれる人なんて何処にもいない。
 
そう思い込んで、絶望していた。

あちこちの親戚をたらい回しにされ、その度に嫌そうな顔で睨まれ。

理不尽な暴力までふるわれていたのだから、そうなるのも当然というものだろう。

あまりに毎日辛かったからだろうか。

当時のことについては、ただ「辛かった」という記憶以外、上手く思い出せない。

凄く辛い思いをしたのは覚えているけれど、具体的なエピソードは、数えるほどしか思い出せない。

僕自身、あの頃のことは思い出したくないから、積極的に思い出そうとしたこともない。

僕の記憶が鮮明に残っているのは、その後、5歳になってからだ。

もう何軒目だったか。親戚中をたらい回しにされていた僕は、とうとう、とある家に引き取られた。

短期間の間に、あまりに色々な場所を転々としたせいで。

その家に辿り着いた時も、「きっとここにも長くはいられない」と思い込んでいた。

きっと数週間で、長くても数ヶ月で。

早ければ、ほんの数日で追い出されるかもしれない。

そう思っていた。

けれど、それは大きな間違いだった。

その家は、これまでの家族とは違っていた。僕は今も、その家に住んでいる。





その時に、僕は初めて「兄」に出会ったのだ。

兄に初めて会った時のことを、僕は今でも覚えている。

「…初めまして。君が小羽根だね」

それが、兄が僕に最初にくれた言葉だった。
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