小羽根と自由な仲間達
第5章
ーーーーー僕が人生で初めて「絵画」というものに触れたのは、無悪の屋敷に来て一週間ほど経った頃のことだった。

あの頃はまだ、追い出されるんじゃないかと心配で、毎日、ずっと挙動不審で。

借りてきた猫のように、黙って大人しくしていたものだが…。

…それはともかく。

無悪の屋敷には、家中の至るところに絵が飾ってあった。

実家にいた頃は、家の中に絵なんて飾っていなかった。

だから、無悪の屋敷に当たり前のように絵がいっぱい飾ってあって、感心したものだ。

家の中に絵が飾ってあったら、何だかお金持ちっぽい感じがしませんか?

上流階級って感じで…。

無悪の屋敷に飾ってあるのは、僕がそれまで見たこともないような絵ばかりだったけど。

きっと、これらは全て、著名な画家の作品なんだろうなと思っていた。

絵の種類は色々だった。花瓶に生けられた花だったり、お皿の上の果物だったり、山や村の風景画だったり。

あるいは、僕には到底理解が及ばない、抽象画だったりした。

未だに抽象画だけは、僕には理解出来ない。

つまり、僕には芸術的なセンスがないってことなんだろう。

幼児が殴り書きしたような絵にしか見えないけど、こうして立派な額縁に入れて飾ってあるってことは。

きっとこれも、凄く有名な絵なんだろうと思っていた。

それらの絵の正体を知ったのは、無悪の屋敷に来てから3ヶ月ほど経った頃。

その頃には、少しずつ加那芽兄様と打ち解けていた僕は。

雑談のつもりで、屋敷にたくさん飾ってある絵について尋ねた。




「加那芽兄様は、絵を集めるのが好きなんですか?」

「…ん?どうして?」

「だって、おうちの中にいっぱい絵が飾ってあるから…」

あれらの絵は、てっきり、加那芽兄様が趣味で収集しているものだと思い込んでいた。

だから、まさか、あれらの絵の全てが。

「いや、別に集めるのが好きという訳じゃないよ」

「え?でも、あんなにたくさん…」

「あぁ。あれはね、私が子供の頃に描いた絵なんだよ」

「…」

…まさか、あれらの絵の全てが、加那芽兄様の作品だなんて思ってもみなかった。

突然ネタバレを食らったような気分で、当時の僕はしばしポカンとしてしまった。
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