ペットボトルと頭痛薬
 頭を締め付ける痛みをどうにか弾き飛ばそうと深呼吸をする透馬だったが、それをしたとて意味がないことは分かり切っていた。ただの気休めだ。頭痛は全く治まらない。だから雨は嫌いなのだ。透馬は降り注ぐ雨を憎しみを込めて睨んだ。眉間に皺が寄った。

 その時、隣の席から例の視線を感じた。友人同士で話が盛り上がり始める中、透馬はその輪には参加することなく静かに隣を見遣る。黒い瞳と目が合った。睨みつけられていると思った。負けじと睨み返すと、ふいと顔を逸らされてしまう。透馬に横顔を晒す相手は、人一倍端正な顔面を僅かに歪め、それから上を向いて瞼を閉じた。透馬がたまに目にする彼の癖のような動作だった。

 漆原永遠(うるしばらとわ)。それが、透馬の隣の席に座る男子の名だった。永遠とは、理由も分からずに睨み合ってばかりで、特にこれといって話したことはない。何を考えているのか分からない寡黙な一匹狼という見たままの情報しか得られていないのだった。永遠のことを詳しく知る人物など、同じ教室で学んでいるこのクラスにすら誰一人としていないのではないか。そう思ってしまうくらいに誰とも連んでいない永遠から、なぜ自分が、喧嘩を売られているかのように目をつけられているのか、透馬は心底理解に苦しんだ。知らない間に永遠の気に障るようなことをしてしまったのかと考えたが、いくら考えても思い当たる節はない。理由は未だ謎のままだ。

「あー、あたまいた……」

 一人小さく、ほぼ口の中で呟き、永遠の真似をするわけではないが瞼を下ろす。頭痛に悩まされていても、昼は問題なく食べることができたため、正真正銘、これはただの頭痛なのだ。全部天気のせいだった。雨のせいだった。五月から六月にかけては毎年憂鬱な気分になる。そんな日々が多い。梅雨の長期休暇が欲しいくらいだ、などと、透馬は通るはずもない案を頭に思い浮かべた。
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