ペットボトルと頭痛薬
 透馬の近くで何やら熱く語り合い続けている友人たちの声をぼんやりと聞き流しながら、透馬は痛くて重たい頭を支えるように頬杖をついた。友人たちは、今話題になっているアニメの話をしているようだ。タイトルは聞かずとも、ワードだったり内容だったりを耳にするだけで何のアニメか容易に想像がつく。透馬もそれを見たことがあるため、決してその輪に入れないわけではないが、現在の気分ははっきりとした濃いブルーだ。気持ちよく話し込めるとは思えなかった。

「ああ、もう、マジふざけんな、頭痛すぎ、うざ、クソだなマジで、クソクソ、毎日毎日クソだな、マジでクソ」

「さっきから全部聞こえてる」

「ああ?」

「暴言吐くくらい頭痛が酷いなら、これやるよ。最後の一錠が残ってるから」

「はあ?」

「飲めば少しは楽になるはず」

「飲む?」

 雨を睨んでぼそぼそと文句を口にしていると、唐突に誰かの声が割り込んできた。透馬は機嫌の悪さを全開にしたまま喧嘩腰で返事をしてしまったが、相手はどこ吹く風で平然と言葉を続け、透馬に何かを差し出してくる。眉間に皺を寄せながら見ると、差し出されたそれは市販の頭痛薬だった。

 一瞬だけ動きが止まり、遅れてハッとなった透馬は、目の前の頭痛薬を見て、それから、指、手首、透馬と同じ制服に通された腕、二の腕、肩、首、顔、と視線を移動させていった。切れ長の目と目が合う。相変わらずこちらを睨んでいる、わけではないように今は見えるが、その顔を瞳に映し、もう一度頭痛薬を見て、またその顔に視線を戻して、再び頭痛薬を見て、そして、透馬は、自分でもなぜか分からないまま飛び退いた。ガタガタと机を倒しそうになり、ガタガタと椅子から落ちそうになる。側で会話を弾ませていた友人が、透馬の突然の奇行に驚愕しつつも、背凭れ代わりになってくれたことで難を逃れた。透馬はいきなり声をかけてきた左隣の席に座る永遠と目を合わせ、喧嘩なら受けて立つぞとばかりに身構えた。
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