【完結】梅雨鬱々倶楽部~梅雨と初恋、君の命が消えるまで~

雨の公園で


 梅雨。
 芽吹きの緑を、濡らす雨。
 どんよりして、人々は不快そうに歩く。

 まだ午前中だ。
 一時限目が終わる頃。

 建物から出てきた少女・コノミも気だるそうに灰色の空を見上げた。

「やっぱ雨かぁ」

 彼女が出てきた建物には『整骨院』の文字。
 パッと傘を差して歩き出すが、右足を庇いながらゆっくり歩く。

「バス……間に合うけど……やめた。間に合わな~いってことにしよ!」

 田舎で、ラッシュ時間を終えたバスは40分に1本。
 急げば……普通に歩けば間に合うのだが、コノミはそのバスに乗る気はなかった。

 バス停に続く国道を、右にそれた先にある公園。
 それなりに大きく、市民の憩いの場だ。
 
 屋根のあるベンチ。
 そこがコノミの目標地点。
 そこまで公園の紫陽花を眺め、雨の雫で揺れる池を通る。

「あー……自販機で、あったかいミルクティーでも買ってくれば良かったな」

 自販機は国道沿いにしかない。
 蒸し蒸しする梅雨の時期だが、今日は思った以上に寒かったのだ。
 屋根付きベンチに着いたら、カバンの中のカーディガンを着ようとコノミは思った。

「あれ……」

 誰かいる。

 屋根付きベンチにいたのは、着物を着て雨を眺める男の子だった。
 着物を着ている男の子なんて、珍しい。
 
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