【完結】梅雨鬱々倶楽部~梅雨と初恋、君の命が消えるまで~

梅雨夢境鯨


 次の日の放課後。
 ナギサの命が消えるまで、あと4日。
 学校からすぐにコノミは走って公園へ向かう。
 今日もあまり時間はない。
 家での目は厳しくなるばかりだ。

 今まではどう生きていたんだろう? そう思うくらい息苦しい。
 バスから降りると酷い雨だ。
 傘に突き刺さる雨。

 雨の中が、まるで水の中のようで……あの屋根付きベンチの中に入らなければ死んでしまいそうな気がした。

「私は……生きたまま……? ナギサくんがいなくなって……しまっても?」

 ナギサがいない世界がくるだなんて……ほんの数日で変わってしまった世界。
 この、あったかい世界が終わる……?
 信じたくない。

「やぁ、こんにちは」

「……こんにちは」

 バスから降りて、走って、でも息切れをしていたら心配させると思ったので近くからナギサを見て呼吸を整えた。

「走ったでしょう」

「……バレちゃった」

 でも結局バレてしまった。
 自然にナギサの隣に座る。
 今日の彼は真っ白な着物だ。

 まるで死に装束みたいに……。

「はい。今日は紅茶だよ。買ってきたの!」

「え?」

 差し入れは、紅茶。
 紅茶も彼は飲んだ事がないと言っていたからだ。
 『飲んでみる?』と自分のペットボトルを差し出す勇気はなかった。

「ミルクティーとレモンティーどっちがいい? お菓子はね、これ……なんていうんだろ? マドレーヌ? フィナンシェ?」

 コンビニで買った焼き菓子。
 コンビニなのに、高級に見える。

「いつもお金を遣わせて申し訳ないよ」

「私が一緒に食べたいの! 付き合って」

「……ありがとう。また一つ経験できたよ」

「ふふ、どっちがいい?」

「どっちだろう?」

「じゃあまず両方飲んでみたらいいかな? それで気に入った方を飲めばいいよ」

「そんな。口を付けたものを君に返すなんてできないよ」

「え!! あ!!」
 
 そう言われて、ナギサに間接キスを促した事を指摘されたようで頬が熱くなる。

「ごめん、わ、私は気にしないって思ったんだけど……気になるし気になるよね……私も気にならなくはないんだけど、別にあのその」

 アワアワと真っ赤になってパニックになるコノミ。

「コノミ……僕は何か間違えた?」

「いや、あのその決して狙ったわけじゃないから! ただ両方飲んでみてほしかったから……」

「君の優しさはよくわかっている。僕が無礼になると思っただけで……じゃあ少量ずつ頂くよ」

 コノミの慌てっぷりを見て、ナギサは二つ受け取った。

「僕が口を付けて、本当に気にならない?」

「いやあの、うん。大丈夫。全然、全然」

「では、レモンティーから頂きます」

 ナギサがレモンティーを一口飲む。

「これは……お茶にレモンの爽やかさが加わって美味しいね。初めての味だ」

「だよね! ミルクティーも美味しいよ」

「いただきます。これも、美味しい。お茶と牛乳だなんて、信じられないけど……ロイヤルミルクティーか。確かに高貴な味わいだ」

 飲みながらパッケージを見て、頷くナギサ。

「ふふ、甘くて美味しいよね~! 私のお気に入りなんだ」

 本当はここから離れた場所にある全国チェーンのコーヒーショップで飲めるロイヤルミルクティーを飲ませてあげたい。
 あれはコノミが此の世で一番美味しいと思える飲み物だ。
 一緒にコーヒーショップで……。
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