【完結】梅雨鬱々倶楽部~梅雨と初恋、君の命が消えるまで~

「救いと契約……干渉……それは祓魔師の考え方だ! ……何故、君がそんな?」

「……助けてって言って……」

 コノミは一冊の本を置いたカバンから取り出した。

「……本……?」

「うん……これを持ってきた……どうかお願い禁術よ! ……今だけでいいから……私の手元で力を発揮して……!!」 

 コノミが持っている本も、カバンから零れ落ちた本も濡れながら淡い光を放つ。

「それは……祓魔術教本? しかもそれは門外不出の……そうか……君は……君の正体がわかった」

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 梅雨夢境鯨が咆哮する。
 膨大な力を持って肉食になった仙人鯨が、獲物を見つけた咆哮だった。

「ナギサくん!」

「祓魔師は、望まれない術は振るえない。禁忌になるからね。契約が必要……そういうことか」

「そう……そうだよ! だからお願い! 助けてって言って!」

「……それは言えない。……もうすぐ時間になる。その瞬間に僕を頭から食いに来る。君をもう危険な目に合わせたくないんだ。だから早くお逃げなさい。貴女は此処にいてはいけません。彩願ノ宮家(さいがんのみやけ)のお嬢様」

「……ナギサくん……あなたは仁江谷家(にえやけ)の汀(ナギサ)くん……なの?」

「……そうだよ……君が……彩願ノ宮家(さいがんのみや)の子だったなんて……」

 コノミの家。
 代々、国家を邪悪なもの達から守る祓魔師名門――彩願ノ宮家(さいがんのみやけ)

 ナギサから額にキスをさえて家に帰ってから、バレないように必死にこの事を調べた。
 数百年に一度、それでも何度も繰り返されてきた『梅雨夢境鯨贄儀式(つゆ・むきょうげい・にえぎしき)

 吐き気がするような、(おぞ)ましい儀式。
 でも、生贄という犠牲がある事は一切、書かれていない。
 むしろ、その武器がどれほど強く、どれほど性能がいいのか――綺麗ごとばかりだった。

 それでも更に深く調べ続けて、ようやく見つけた『仁江谷家』
 代々、質の良い生贄を捧げる一族。

 今回選ばれたのは、兄弟で一番下だったナギサだ。
 この令和の時代にも繰り返される狂った儀式の生贄に――彼は選ばれた。
 
「僕が元になった武器は、君が振るう事になるだろうか……」
 
 当主になるであろう姉には、彩願ノ宮家(さいがんのみやけ)に代々受け継がれる武器が継承されるだろう。

 新しい武器は、妖魔を斬り、祓い、更に鍛えあげていく工程が必要になる。
 彩願ノ宮の次女であるコノミが、その役割を与えられる可能性は大いにあった。

 ナギサが犠牲になった武器を、一生背負って生きていく。

「……私はそんなの絶対に嫌だ……!!」

「君の手で、君を守る役に立てるなら……それでいいよ本望だ」

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 二人の会話を邪魔するように、梅雨夢境鯨が更に鳴いて口から大量の魚を吐き出した。
 あれは梅雨夢境鯨からの攻撃だ。
 コノミを敵だと認識したようだ。

「コノミ! 逃げろ!! 帰るんだ!!」

「いやだ……!!」

 コノミは手に持った本を持って詠唱する。

炎石傑光(えんじゃくけっこう)!! 彩願ノ宮此乃美が命ずる! 我が一心の願いを聞き、空に蠢く邪悪を滅しろ!!」

「コノミ……!!」

 真っ暗な空に、炎が舞って二人に襲いかかる魚達が爆発する。
 コノミが毎日勉強し、学んでいたのは――これだった。
 高校から祓魔術の特殊学園に進み、優秀な姉と比べられ両親には落ちこぼれと溜息をつかれ続けた。
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