【完結】梅雨鬱々倶楽部~梅雨と初恋、君の命が消えるまで~
特殊な塾でも講師に溜息をつかれ、家でも学び……もう疲れ果てていた。
「逃げるんだコノミ! そんな事をすれば、ヤツは君を敵だと認識してしまう!」
「いやだ!! いやだいやだいやだ!! 炎殺千刀爆受!! 邪悪を切り裂く清らかな炎よ……我が手に宿り悪を切り裂け……!!」
武器召喚の上級術だ。
一度も成功したことが、なかった。
加えて夜の、激しい雨。
雨の中で火起こしをするような、無謀な術。
それでも――!!
コノミの手に。初めて現れた炎の刀。
「やった! ……あっ……」
成功したと思ったが、コノミの右手の刀は降り注ぐ魚を数匹斬っただけで、燃え尽きてしまった。
コノミは誰とも契約をしていないのに、術を使った。
そのペナルティで彼女には、術の反動が襲い、更に空からの魚が襲う!
「きゃああっ!!」
「逃げろーーー!!」
光のチェーンで囲われたナギサには、手出しできない。
「いやだ!!」
それでも、コノミに流れる正統な血脈のせいなのか、弾き飛ばされて沼の芝生に転がって本が光を失うとそれ以上の攻撃はなかった。
バラバラに散らばった禁書本が、コノミを守ったのかもしれない。
「ぐっ……ナギサくん……」
「大丈夫か!? いいから逃げるんだ!!」
「いやだよ……!」
「僕は、君に助けを求めることはしないから……! 危ないことはやめてくれ……!」
ナギサの意志の強さが、感じられた。
彼は自分の運命を、恐れてもいないし、嘆いてもいない。
受け入れている。
受け入れられないのは――コノミだけだ。
「いやだ……やだよ……」
「梅雨夢境鯨!! 彼女を狙うな! お前の贄は僕だ!!」
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン
オオオオオオオオオオオオオオオオン
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン
様子を伺っていた鯨が、『そろそろか』というように公園の上空をゆったりと泳ぎ、鳴く。
きっと一瞬で、ナギサは喰われてしまう。
「コノミ……早く逃げるんだ……今度こそ元気で……生きて」
「……やだ……」
これで終わりにしようとするナギサ。
むしろ彼は、コノミをかばう為に早く喰われようとしている。
鯨が鳴いた。
これでナギサの命は終わる――。
消えてしまいそうな、泣いた声でコノミは言った。
「やだ……助けて……」
「……コノミ……?」
「……私を助けて……ナギサくん……」
芝生の上に転がって、泥だらけで雨に打たれて、コノミは泣きながら声を絞り出した。