【完結】梅雨鬱々倶楽部~梅雨と初恋、君の命が消えるまで~

梅雨で終わる命


「え? ……此の世にいない……?」

「うん」

 突然の衝撃的な言葉。

「ごめん。普段は誰かに話しかけたりしないけど、もうすぐ終わりかと思うと……そう、誰かと話がしたくなった」

「もうすぐ……」

 言葉が出ない。

「あ、びっくりするよね。でも気にすることはない……そういう運命だから」

「此の世にいないって……つまり……あの」

「命が終わって、死ぬってこと」

 ハッキリと言われて、またコノミは沈黙してしまう。
 雨は止むことなく、降り続く。
 そういえば、この公園の近くには大きな病院がある。
 彼はそこの入院患者だろうか?
 
「……どうにか、ならないの?」

「運命だから、抗うことはできない」

「……病気なの? ……ごめんなさい、聞いちゃって」

「病気……みたいなものと思ってていいよ。運命だから。梅雨が終わる頃には、もう終わる……とだけ。ごめん。人は人が死ぬ話を聞いて良い気分にはならないよね」

 病気みたいなもの? 運命……?
 詳しくは聞かない方がいいみたいだ。
 
 彼はずっと無表情で、こちらを見ない。
 ベンチの外の雨を見つめて、アンニュイな雰囲気をずっと放っている。

「あ……ううん。私で良かったら、なんでも話をしていいよ」

 そうコノミが言うと、彼は初めてコノミを見た。
 とても整った顔立ちで、睫毛が長くて、鼻もスッと高くて、肌は透けるように白いのに、唇は珊瑚のような色。
 瞳にかかりそうな前髪が、余計に彼のアンニュイさを引き立てている。

 コノミは一瞬見惚れてしまったが、彼が無言な事に気付く。

「あ、あの! 無理にとは言わないんだけど、みんな私が相談しやすいって言うんだ」

 大げさに身振り手振りで言ってしまう。

「そうなんだ……僕も、こんな、誰かに話しかけるなんて気迷いを起こすとは思わなかった……」

「話しかけてくれて、嬉しいよ」

「そうかい。迷惑じゃなくて良かったよ」

「よく此処に来るの?」

「……普段は外には出ないんだ……でも雨が降っている間は……許可された。最後だし、逃げられないからね」

「……逃げたいの?」

「逃げても仕方ない。逃げられない。運命からは。納得はしてるんだ」

 彼の背負った運命。
 逃げられない運命。

「抗ったら、助かったりするの?」

「どうなんだろう? そんな事を考えたこともない」

「そう……なの……」

 これ以上、彼に自分の話をさせるのはやめようとコノミは思った。
 酷い運命を何度も彼に認識させてるだけのような気がした。
 
「寒くない?」

 彼は白い着物姿だ。
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