【完結】梅雨鬱々倶楽部~梅雨と初恋、君の命が消えるまで~
梅雨鬱々倶楽部
男の子と突然話をして、友達になろうと誘うなんて……大胆過ぎる。
言ってから、ドキドキする心臓。
「友達……いいね。此の世からサヨナラする前に……僕に初めての友達か」
でも驚く事に、男の子の返事は肯定だった。
続く言葉は、コノミの心に刺さる。
「そんな……」
「梅雨が開けるまでの友達だけど、それじゃあよろしく」
「……うん」
別れが決まっている友達。
それはきっと悲しい。
「でも僕は鬱々としていて、陰気だと思うから……きっと楽しくはならないよ」
「私も、そんな話が上手ではないし……」
「じゃあ、よろしく。僕はサナギにもなれないナギサだよ」
「そ、そんな悲しい名前の言い方しないでよ~~」
「芽のでないコノミだと、先に言ったのは君じゃないか」
「あ、そうだね。私の方が卑屈だったね」
「卑屈は僕もだよ」
「鬱々な二人だね。梅雨鬱々倶楽部だ」
思いつきで言った言葉。
でもナギサが少しだけ、微笑んだ。
それがなんだか、コノミはすごく嬉しかった。
梅雨の間だけの友達ができた。
「……スマホ持ってる?」
「いや、持ってないよ」
「いつ来たら、会えるかな」
今は学校の時間だ。
毎日サボるわけにはいかない。
「真っ暗になるまで、ならいつでも」
「じゃ、じゃあさ。学校が終わる頃に、私は此処に来る」
「そう、無理はしないで。えっとコノミさん」
『さん』なんて、小学校1年生以来だ。
少しドキッとしてしまうけど、『お友達』なのだからドキッとしてはダメ! とコノミは思った。
「ナ、ナギサくんも……身体、無理しないでね」
「わかったよ。ありがとう」
バスの時間まで、色々とお話をしようかとも思ったけれど……雨の音と遠い遠い雷の音。
同じ空間にいる、不思議な美少年。
なんだか胸がいっぱいになって、二人で景色を眺める静かな時間を過ごした。
「じゃあ、そろそろ行かないと……また来るね」
「うん、僕はまだいるよ」
そう言って、ナギサは雨の公園を眺め始める。
もう、彼の世界に自分はいない。
コノミは重たいカバンを背負う。
そして傘を差して歩く。
「……あのすみません。道を聞いてもいいですか? 助けてほしいんです」
道を聞かれた。
「あ、はい」
道を教えると、その人は礼を言って去って行く。
どんな人が相手でも、助けになりたいとコノミは思って学校へ向かう。
中学校までは学校が楽しかった。
今も、逃げたくなるほど嫌なわけではない。
いじめられているわけでもないし、毎日嫌味を言われるわけでもない。
だけどあの高校の校舎に入ると、『優秀な姉の妹』になってしまう。
自分が勝手に思ってしまう。
そんな自分が嫌だった。
「でも梅雨鬱々倶楽部のメンバーなんだから……陰気くさくっても、いっか」
そう思うと、ちょっと笑えた。
自分しか乗っていないバスに揺られて、少しだけ笑ってマスクを着けた。