【完結】梅雨鬱々倶楽部~梅雨と初恋、君の命が消えるまで~
「教科書と宿題持ってこないの?」
「あ!」
おいでと言われて、自分だけ座りに来てしまった。
少しどころか盛大に恥ずかしくなって、コノミの顔は真っ赤に熱くなる。
「ひゃ! わ、私ほんとうにバカなんだよぉ! ごめんねごめんね」
ひょこっとコノミが立ち上がる。
「そんな謝る事じゃないって。ねぇ足を怪我をしてる?」
「え? あ~右足ね。昔の怪我で……梅雨になると痛むんだ……」
「気付かずに、ごめん。僕がそちらに行くよ」
「えっ……いや、全然なの。ナギサくんの方が体調が」
ナギサがふわりと立ち上がって、コノミはあわあわしてしまう。
「僕は別に……梅雨が終わるまでの命という事だから……」
「そんな……」
「大丈夫? 足」
「うん! 今それで整骨院に通ってて……今朝此処に来たの」
「そっか無理しないで」
「親からも鈍臭いって言われるような怪我で、心配もされないよ! だから平気だよ」
「それは平気になる理由にならないよ」
「えっ」
「心配されなくたって、痛いのは君なのだから」
そんな事を言われたのは、初めてだったのでコノミは驚いた。
「さぁ、無理せず座って。どこがわからないの?」
自分の事はなんの事でもないかのように流す。
コノミは宿題を持ってナギサの隣に座った。
「……ナギサくんは痛いところとか……ないの?」
「大丈夫だよ。そういう事ではないんだ。僕の身体について何も気にする必要はない。心配は無用だよ」
一体どういう事なのか。
身体の心配はする必要がない……?
「コノミさん?」
「あ……じゃあ食べられないもの、とか……ない?」
勉強を教えてくれようとしている人に、また変な話をしてしまった。
「食事? 特に制限はないよ?」
当然に不思議そうな顔をする。
「そっか」
「何故?」
「あ~一緒にお菓子とか食べたり……したいなと思った」
「お菓子……君が作ってくれるの?」
「えっ!?」
思いがけない言葉。
コノミの大声にナギサも驚く。
「あの、あの買ったやつって思ったんだけど」
「ごめん……買ったお菓子って頭になかった……」
お菓子と聞いて市販を思い浮かべないとは。
上品な着物も着ているし、これは相当な良いお家の子?
恥ずかしそうに下を向くナギサ。
彼がこんな顔をするなんて、そうさせたのは自分で……と思うとコノミも変にドキドキする。
「じゃあ……私が作ったの、食べてくれるの……?」
「え?」
お菓子なんか作った事はない。
作ってるところを見られたらなんと言われるか……。
「えっと嘘嘘! ウソだよ」
「……チョコレートを食べてみたい」
「え……食べたことないの?」
「うん。まぁおかしいよね」
「今なら、食べていいの……?」
「うん。もう好きにしていいと言われてる。梅雨で終わりだからね」
「ナギサくん……」