【完結】梅雨鬱々倶楽部~梅雨と初恋、君の命が消えるまで~

 胸がギュッとなる。
 出逢ったばかりの男の子。
 自分ができることはなんだろう?
 梅雨で終わり……死んでしまうと言う男の子に。

「そんな顔しないで、ごめんね」

「ち、違うの! じゃあチョコのお菓子作ってくる」

「……ほんとに?」

 驚く顔がまた、ナギサはどんな顔をしても綺麗で素敵だと思った。

「うん」

「ありがとう。サナギになれない幼虫でも、いい思い出ができそう」

「ねぇ、ナギサくんのやりたい事を教えてよ! 一緒に……できることしようよ」

「うん。こうやって、梅雨鬱々倶楽部の友達ができて、それが嬉しいからいいんだよ」

「こんな事で?」

「そう。普通の子のように、公園でこんな風にお喋りをして、宿題を教えるだけでいいんだ」

 本当は、こんなこと普通の子はしない。
 公園でお喋りもするけれど、この梅雨で雨の日に公園で勉強する子なんか誰もいない。
 みんなファミレスやファーストフード店に行って、カラオケに行く子もいるかもしれない。
 みんな梅雨でも陽気倶楽部なのだ。

 でも、二人は梅雨鬱々倶楽部だから。

「そうだね! ありがとう!」

 心のモヤモヤを吹き飛ばすように、コノミは大声で言った。
 宿題を教えてもらいながら雨音を聞いて、次第に教科書も公園の灯りでは見えなくなってく。
 
「今日はここまでだね。そろそろ暗いから帰るといいよ」

「うん……そうだね。宿題ありがとうね。すごくわかりやすかった。ナギサくんは帰らないの?」

「僕の事は気にしないで。……また会えたら」

「もちろん、また来る……でも明後日に……なっちゃう」

 今日は二回も公園に来てしまった。
 明日も此処に来たい気持ちしかないが、明日は塾がある。
 
「僕は梅雨が終わるまで、此処にいるから気をつけて帰って」

「あの、梅雨鬱々倶楽部を結成してよかったって思うようにするね!」

「ふふ……そうだね……梅雨鬱々倶楽部結成の日だった。今日の今日だった。今日は……思い出の日になるね」

 無表情だったナギサが少し微笑んだのがわかった。
 でも彼はすぐ雨の風景に目をやる。

 コノミのいる世界と切り替わったように……。

 コノミは雨のなか、家へと帰る。
 今朝に出逢って、友達になって……嘘みたいに綺麗な少年。
 梅雨が終わったら死んでしまうという少年。

 梅雨鬱々倶楽部なのに、ナギサを思い出すと紫陽花の花のような小さな小さな花が一輪、心に咲いた。

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