幽閉王子は花嫁を逃がさない
「――いいさ、何をしても無駄だって、わからせてやる」
「殿下、なにを……」

 ずかずかと部屋を横切り、カーティスはナタリアの細い手首をつかんだ。ぎょっとしたのもつかの間、ぐいっと手を引かれ、室内へと引き入れられる。
 痛みに顔をしかめたものの、ナタリアは悲鳴一つ上げず彼の腕に従った。
 ――何をされても、どんな扱いを受けても耐えるように。
 それが、塔に来る前に受けた、国王からの命である。だが、そんなナタリアの様子を見て、カーティスは一瞬だけ戸惑ったようだった。

「お前……」

 だが、そんな戸惑いも一瞬だった。乱暴に腕を掴んだまま、カーティスはずんずんと部屋の奥へ歩いていく。そこには、もう一つ扉があった。
 細い指がノブを掴み、がちゃ、とひねる音がする。

「お、お待ちください、殿下……!」
「そこで待ってろ……!」

 思わず振り返ったナタリアの視界に、カーティスを止めようとした騎士がよろよろと立ちあたり、部屋に踏み込もうとするのが見えた。だが、その一歩を踏み下ろすこともできず、彼が部屋から弾き飛ばされる。

「……っ」
「ふん……お前はこっちだ」

 扉が開かれ、背を押されたナタリアはよろけながら室内へ足を踏み入れた。薄暗い部屋の中、背後で扉をばたんと閉められて身がすくむ。
 閉じ込められたのか、と思ったが、すぐ背後からカーティスの声がした。

「……脱げ」
「えっ……?」

 一瞬、何を言われたのかわからずに、ナタリアは背後を振り返った。だが、暗い部屋の中ではフードを被ったままのカーティスの表情はわからない。
 戸惑うナタリアを威嚇するかのように、カーティスの口から低い呻き声が漏れた。

「脱げ、って言ったんだよ。わかるだろ」

 ナタリアは目を瞬かせた。脱げ、というのはドレスを、ということだろうか。いや、当たり前か、それ以外に脱ぐようなものをナタリアは身に着けていないのだから。
 そんなナタリアを馬鹿にしたような態度で、カーティスが目の前にある大きな影に腰を降ろす。
 ――どんな扱いも、耐えるように。
 王の言葉が再び耳元でよみがえって、ナタリアはきつく唇をかみしめた。
 暗がりに目が慣れてきて、ナタリアの視界にもうすぼんやりと部屋の様子がわかる。部屋の大半を占めているのは、大きな寝台。天蓋付きの立派なもののようだ。カーティスが腰を降ろしたのは、その寝台だった。
 つまり、ここは寝室で――ナタリアはこれから、ここで彼に抱かれるのだろう。
 けれど、まだ彼の顔をはっきりと見てもいない。挨拶すらしていないのに――。
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