幽閉王子は花嫁を逃がさない
「……できないのか?」

 そんな覚悟もなくここへ来たのか。言外にそう言われたような気がして、ナタリアはゆっくりと、震える手をドレスにかけた。覚悟は、とうに決めてきたはずだ。
 ボタンを外し、身頃をを緩め――ナタリアはそこで重大な問題に気付いた。

「申し訳ありませんが……」
「怖気づいたのか」

 あざけるような彼の言葉に、ゆっくりと首を振る。それから、彼の方に背中を向けると、ナタリアは羞恥に耐えながら次の言葉を発した。

「いいえ……その、コルセットは、どうしても一人では外せなくて。殿下、お願いできますでしょうか……」

 ぎり、と歯ぎしりのような音が聞こえた。怒らせてしまったのだろうか、とナタリアの身がすくむ。
 けれど、それ以上言葉を発することなく、カーティスは立ち上がるとナタリアの背後に立ち、そっとコルセットの紐を外し始めた。

「くそ……」

 小さな悪態が背後で聞こえる。しかし、存外スムーズな手つきで、カーティスはコルセットを外し終えるとそれを放り投げた。
 ナタリアの身に残されているのは、上質な絹でできたシュミーズとドロワーズだけだ。
 その姿が見えているのかいないのか――。
 カーティスが、突然乱暴にナタリアの腕を引いた。その息は荒く、暗闇の中でさえ紫色の双眸はやけに光って見える。
 寝台の上に引き倒されて、上からカーティスが覆いかぶさってきた。その後は、まるで嵐のようにことがすすんだ。
 熱い手が全身を這い、快感を引きずり出される。迷いのない手つきは、彼がこういったことに慣れていることを如実に物語っていた。

「くそ、こんな……こんな……」

 そんな、小さなつぶやきと、彼の額から滴り落ちる汗。小さな水音と、与えられる快楽――そして痛み。
 訳も分からず声をあげるナタリアの上で、カーティスが一心不乱に腰を振る。
 どれくらいの時間がたったのかはわからない。一糸まとわぬ姿のナタリアに対し、カーティスは未だ着衣のまま、フードも被ったままの姿だ。

「こんな、ばかなこと……」

 薄れゆく意識の中で、カーティスのそんな呟きが聞こえたような気がする。苦し気なその声に、思わずナタリアの手が彼の頭に伸びた。
 さら、と艶やかな感触が手のひらに触れる。その時、手が引っかかったのかフードがぱさりと脱げた。その奥に見えたのは、獣のような耳――だった、ような気がする。
 だが、それを確認するよりも先に、ナタリアの意識は遠くなり、闇に沈んでいった。
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