人気の動画配信グループに男装してダンス教えてます

恭弥side 嘘だろ……

 我ながら、バカなことを考えてるって思う。二人が同一人物なんてありえないだろ。
 けどそう思わずにはいられないくらい似てるんだよな。
 それに、今まで二人が一緒にいるところも見たことがない。

(けど、わざわざそんなことする理由がないよな。いや、でも……)

 何度も否定して、だけどその度に、もしかしたらって気持ちが湧いてくる。
 もし仮に、仮に二人が同じやつだとしたら、さっき俺は、本人にめちゃめちゃ可愛いとか言ったんだよな。それは、かなり恥ずかしい。
 ずっとそんなことを考えてたもんだから、その後の練習は、それまでにも増して散々だった。

「どうした、恭弥。今日は調子悪いのか?」
「ああ、ちょっとな」

 練習が終わった後、瞬が聞いてくるが、何を考えてたかなんてとても言えねえ。
 適当に誤魔化すと、汗をかいたシャツを脱ごうとする。
 だけどその瞬間、奈津が声をあげた。

「あっ! と、トイレ借りるね!」

 そう言って、慌てたように部屋から出ていく。
 そういえばあいつ、昨日もこのタイミングで出ていったよな。
 もしアイツが本当に亜希なら、男の裸見るのが恥ずかしくて出ていったんじゃないのか?
 っていうか、昨日俺はアイツの前でどこまで脱いだ?
 そこまで考えて、思わず頭を抱える。

「おい恭弥。本当に大丈夫か?」
「い、今はほっといてくれ」

 まずい。このままじゃ、気になりすぎておかしくなりそうだ。
 こうなったら、確かめるしかない。

 それからしばらくして、俺達は全員瞬の家を出て、自分の家に帰っていく。
 一人だけ隣街に住んでいる奈津は、車で送ろうかと言われていたが、電車で帰るからと言ってそれを断っていた。
 駅があるのは、俺や拓真や怜央の家とは逆の方向だから、瞬の家を出たところで奈津とは別れる。
 だがそのすぐ後、俺は拓真や怜央に、用事があると切り出した。

「用事って?」
「コンビニで買いたいものがあるんだよ」
「なら僕達も一緒に行こうか」
「いいって。お前達は、先に帰ってろ」

 もちろん、本当の用事はコンビニなんかじゃない。奈津のことを調べるんだ。
 けどもちろん、そんなこと言えない。
 二人と別れると、元来た道を急いで戻って、奈津の後を追う。幸い、すぐに後ろ姿を見つけることができた。
 それから、気づかれないようコッソリ後をついて行く。
 なんだか悪いことをしているみたいで申し訳ないが、これも心のモヤモヤをとるためだ。

「悪いな、奈津。別人だってわかったら、すぐにやめるから」

 尾行までしておいてなんだが、俺だって本気で二人が同一人物だって思ってるわけじゃない。
 これは、そんなバカな妄想をなくすためにやってること。
 奈津が隣街行きの電車に乗るため駅に行ったらやめよう。そう思っていた。
 だが……

「あいつ、どこ行くんだ?」

 奈津は、駅とは全然違う方向にあるいていた。
 しかもその途中、鞄の中からスマホを取り出し、誰かに連絡をとっている。
 あいつ、スマホは持ってないって言ってなかったか?

 疑問がますます大きくなる中、奈津が向かったのは、人気のない公園。そしてそこには、奈津を待っているやつがいた。

「あれは、内藤麗?」

 意外な奴の登場に驚いたが、内藤と奈津も知り合いだって言うし、会うのは別に不思議じゃない。
 そう思っていたら、なんと二人は、揃って女子トイレの中に入っていった。

「おい!」

 内藤はともかく、奈津が入るのはまずいだろ!
 けど止めようにも、二人は中に入ってしまった。
 どうするか迷っていたら、少しして内藤が出てくる。
 そしてもう一人。内藤と一緒に出てきたのは、奥村亜希だった。

「なっ!?」

 思わず声をあげ、慌てて口を塞ぐ。見つからないよう、慌てて物陰に隠れる。
 心臓が、今までにないくらい激しく音を立てていた。
 こんなの見た以上、間違いない。奈津と奥村亜希は、同一人物だ。

「嘘だろ……」

 いったいどういうことなんだよ。奥村のやつ、なんでわざわざ男なんて嘘をついてるんだよ。
 動揺する中、二人の声が聞こえてくる。

「ダンスレッスン、どうだった?」
「みんな凄く頑張ってたよ。でも、九重くんはなんだか集中できてないみたいだった。私の教え方が悪かったのかな? それとも、何か悩みがあるのかも」

 心配そうに言う奥村。悩みってのは、お前が原因なんだけどな。
 そんな奥村を見て、内藤はクスリと笑う。

「亜希、なんか凄くコーチっぽいこと言ってるね」
「からかわないでよ。だって、私のダンス見て、教えてほしいって言ってくれたんだよ。今でも私なんかって思うけど、少しでも役に立つなら、力になりたいの」

 あいつ……
 奥村の言葉に、さっきとは違う意味で、ドクンと大きく心臓が鳴る。

 俺が半ば強引に頼んだ、ダンスの指導。
 こんな時だってのに、それをそんな風に言われたのが嬉しかった。

「じゃあ、これからもコーチを続けられるように、男装も頑張らないとね」
「うん。今さら嘘ついてるってわかったら、みんな凄く怒ったり、嫌われたりするかも。騙してるようなものだから、当然だけど……」
「ちょっと亜希、顔真っ青にしない! 全然バレてないっぽいんでしょ。だったら大丈夫!」

 いや、たった今バレたんだけどな。
 けど奥村を怒ろうって気にはならなかった。
 元々俺は、マスクダンサーのダンスに惚れ込んで、会ってみたいって思ったんだ。
 正体が女子だってのは意外だったけど、それで怒るようなことはない。
「少しでも役に立つなら、力になりたい」。そんな言葉を聞いた後ならなおさらだ。

「何も見なかったことにするか」

 奥村がどんな理由で男のふりをしてるのかはわからない。
 だけど秘密にしたいなら、これ以上それを暴こうとは思わなかった。
 今見て聞いたことは、俺一人の胸にしまっておこう。もちろん、他のスートのメンバーにも内緒だ。
 俺達と一緒にいる時のあいつは、奥村亜希じゃなくて、奈津。それでいいだろう。

 ただ、今度から奈津の前で着替えるのはやめておこう。
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