人気の動画配信グループに男装してダンス教えてます

一緒にゲーム

 スートのみんなにダンスを教えるようになって、一ヶ月くらい経った。

 その間、私は毎日ってわけじゃないけど、何度も五十嵐先輩の家に行って、みんなにダンスを教えていた。
 今日みたいな休みの日は、朝から行って長い時間過ごすことも珍しくない。
 練習内容も、最近は全員で通して踊ることも多くなっていった。

「一度にやりすぎるとよくないし、今日はここまでにしようか」

 そう言うと、みんな力が抜けたように、一斉に息をつく。
 朝からずっと頑張ってたもんね。
 そんなみんなを見てると、ますます応援したくなって、今じゃ奈津になって一緒にいるのが、すっかり楽しみになっていた。

「最後のダンス、録画してたよね。あとで映像見せてよ。俺、けっこううまく踊れた自信あるんだ」

 そう言ったのは小野くんだ。
 私も、さっきの小野くんはかなり上手だったと思う。
 他のみんなも、一ヶ月しっかり努力し続けていたから、みんな目に見えてうまくなっていた。

「それでも、まだまだ奈津には適わないけどね。踊れるようになればなるほど、奈津がどれだけうまいかわかってくるな」
「オレは、みんなより長くやってただけだから」
「長くやってきたってのは、十分自慢になるんじゃないの? だからかな。奈津って細い割にはけっこう引き締まってるよね」
「そ、そう?」
「そうだよ。ほら、こことか」
「ひゃっ!」

 急に、二の腕を触られる。
 もちろん小野くんはなんの気なしにやってることだろうけど、急に男の子に触られたりしたら、ドギマギしちゃう。
 こればかりは、まだ全然慣れないよ。
 するとそれを見た九重くんが、急に声をあげる。

「こら拓真! てめーなにセクハラしてんだよ!」

 せ、セクハラ!?
 その思いがけない言葉にギョッとする。

「セクハラって、奈津は男だぞ」
「そ、そうだけど、男同士でもセクハラになることはあるだろうが。そ、それにだな、急に触るとビックリするだろ」
「なんで恭弥が怒ってるんだよ」
「それは……な、奈津はそういうの遠慮しそうだから、代わりに言ってやったんだ」

 そうなの?
 もしかして私が女だってことバレたんじゃないかと思って、ヒヤッとしたよ。

「お、オレは、別に気にしないから」

 本当は、かなりドキッとしたけどね。
 最近、九重くんは私のことで、こんな風に声をあげることが多い気がする。
 きっと、たくさん気を使ってくれてるんだろうな。

 私達がそんな言い合いをしていると、今度は日比野くんが声をかけてきた。

「今日の練習は終わりだけど、これからどうする? せっかくだし、ゲームやらない? 奈津も一緒にさ」
「いいの?」
「もちろん。っていうか、これで奈津だけ仲間はずれって方がおかしいでしょ」

 私はダンスを教えるためにここに来てるけど、実は最近は、こんな風に一緒に遊ぶことも増えてきた。
 こんなの、スートのファンが聞いたら、いったいなんて思うかな?
 私だけこんなことしてるなんて、ちょっと悪いかもって思うけど、ここで断るのも変だし、いいよね。

「うん、やる。けどオレ、ゲームってあんまりやったことないんだ」
「そうなんだ。よーし。じゃあ、僕がゲームの先輩として、色々教えてあげるよ」

 得意げに胸を張る日比野くん。そんな仕草がなんだか可愛らしい。
 日比野くんはスートのメンバーの中でも特にゲーム好きで、ゲームの実況配信をする時は一番張り切るんだ。

「それで、どんなゲームやるの?」
「うーん。色々あるけど、どれがいいかな」

 日比野くんは、部屋の隅にある棚から、ゲームソフトをいくつか持ってくる。
 実はこれ、全部スートのゲーム実況配信をするために買ったものなんだって。
 私達が話しているのを聞いて、五十嵐先輩も混ざってくる。

「これなんてどうだ? この前配信した時、評判がよかっただろ」
「あっ、いいね。奈津にやらせてみようよ」

 二人はそう言うと、さらにゲーム機を取り出して、ソフトをセット。
 普段動画や録画したダンスを映しているスクリーンに、今度はゲーム画面が映し出された。
 そのゲームの内容とは……

「えっ? これって、怖いやつなんじゃ……」

 ゲームに詳しくない私でも、なんとなく知ってる。襲ってくるゾンビを銃で撃ってやっつけるやつだ。
 五十嵐先輩が言ってる通り、この前スートの動画で実況配信したのも知っていた。
 けど、私はそれを見ていない。

「オレ、怖いのあんまり得意じゃないんだけど」

 あんまりというか、本当は大の苦手。お化け屋敷もホラー映画も無理なの。
 配信を見てないのだって、なんとなく怖そうだと思ったから。

「そうか。なら、他のにするか?」

 ありがとう九重くん。できればこのゲームはやりたくない。
 だけど、日比野くんはすっかり乗り気になっていた。

「えーっ。これ、かなり面白いんだよ。それにゾンビとかは出てくるけど、ジャンルはホラーじゃなくてアクションなんだから、怖さはほどほどだよ」
「そ、そうなの?」
「うん。それに、僕がやりこんでるデータを使えば、初心者の奈津でも簡単にクリアできると思うよ」

 本当かな?
 けど日比野くん、どうやらかなりこのゲームが好きみたい。
 ここまで勧めてるのに、やりもしないで無理って言うのは、よくないかも。

「じゃあ、やってみようかな」
「やった! それじゃ、ちょっと待っててね」

 ウキウキしながら準備を始める日比野くん。
 日比野くんってスートの中でも最年少で可愛い担当ってイメージがあったから、例えゲームでも、こういうのが好きなんてかなり意外。
 けどそれなら、やっぱりそんなに怖くないのかも。
 準備を終えた日比野くんからコントローラーを渡され画面を見ると、私が操るキャラクターに向かって、何体ものゾンビが迫ってきていた。
 うっ。やっぱりちょっと怖いかも。

「主人公はかなり強くしてあるし、適当にボタンを押してるだけでも勝てるから」
「そ、そう?」

 本当かな?
 ビクビクしながらボタンを押すと、日比野くんの言う通り、びっくりするくらい簡単に敵をやっつけていく。

「そうそう。うまいうまい!」
「本当?」

 やられる心配がなくなったことで、さっきまでより怖さが和らぐ。そうして、あっという間にゾンビ達を全滅させた。

「やった!」
「おめでとう、奈津!」

 思わずバンザイすると、日比野くんがそれに向けてハイタッチする。
 ちょっぴり怖かったけど、やってよかった。
 けど、そう思ったのも一瞬だった。

「でも、まだ油断しないでね。これからボスが出てくるから」
「えっ?」

 日比野くんの言葉に、再び画面を見る。
 するとその瞬間、画面を覆うくらいのドアップで、新しいゾンビが現れた。
 しかも、今まで出てきたゾンビより、明らかに怖そうな姿なの!

「ふぎゃーーーーっ!」

 コントローラーを放り投げ、日比野くんに抱きつく。

「うわっ!? 奈津、早く戦わないとやられるよ!」
「無理無理無理! あんなのと戦えない!」

 結局、私が震えてる間に、操作していたキャラはあっさりやられてしまった。

「うぅ……怖くないなんて嘘だよ」
「ご、ごめん。まさかここまで怖がるとは思わなかったんだ」

 私の怖がりように、驚く日比野くん。
 私だって、日比野くんがイジワルしようとしたんじゃないってのはわかる。
 けど、これに黙ってられない人がいた。

「おい怜央。お前、なに奈津を怖がらせてるんだよ! あと、抱きつくな!」
「なんで恭弥がここでキレるの!? それに抱きついたんじゃなくて、抱きつかれてるんだけど!?」

 九重くん。私のために怒ってくれてるんだ。優しい。
 けど、そうだ。私は今、日比野くんに、男の子に抱きついてるんだ!

「ご……ごご、ごめんなさい!」
「奈津は奈津で、なんで謝るのさ?」
「そうだ。奈津は謝る必要なんてない。悪いのは怜央だ」
「だから、なんで恭弥がキレてるの!?」
「そ、そうだよ。オレが驚きすぎたのが悪いんだから……」

 私、日比野くん、九重くんの三人がそれぞれギャーギャー言い合って、大変なことになっちゃった。
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