人気の動画配信グループに男装してダンス教えてます

動画に出演!?

 すると、それを見ていた小野くんが思いっきり吹き出した。

「拓真、なに笑ってるんだよ」
「いや、これで笑うなって無理でしょ。なんなら、もう一度見てみる?」

 そう言って小野くんは、スマホの画面を見せる。
 そこには、私達のさっきの様子が映ってた。

 って、撮ってたの!?
 当然そこには、みっともなく怖がる私の姿があった。

「け、消してーっ!」
「はいはい。けど、ちょっと惜しいかも。これ公開したら、ウケるかもしれないよ」

 まさか、冗談だよね。
 そう思ったけど、五十嵐先輩も大きく頷いた。

「確かに。奈津の怖がりようは100点だし、その後の怜央と恭弥のやり取りも面白かったからな。俺達の動画は学校の奴らに出てもらうことだってあるし、公開するのもありだ」

 嘘でしょ? 私がスートの動画に出るの?
 けど五十嵐先輩は、一度落ち着くように息をつく。

「まあ、それはあくまで、奈津がやりたいって言ったらの話だ。奈津は普段、顔を隠して配信してるだろ。顔出しが嫌ならやめておくか?」

 よかった。
 五十嵐先輩の言う通り、顔出しは怖い。だから小野くん達には悪いけど、断ろうと思った。
 だけど……

(待って。顔出しがダメなのは、亜希の話だよね?)

 地味で華がない私、亜希が顔出し配信なんかしたら、きっと笑われる。バカにされる。
 それが怖くて、マスクダンサーっていう顔を隠しての配信をしていたけど、今の私は奈津。
 もちろんどっちも私には違いないんだけど、亜希として顔出しするより、遥かにハードルが低い気がした。

「オレ、出てもいいかも」
「えっ、いいのか?」

 五十嵐先輩、それに他のみんなも、意外そうに声をあげる。
 私だって、いくら奈津になってるっていっても、普通ならこんなことやらない。
 だけど……

「みんなと一緒に何かやってるの、どこかに残ったら嬉しいなって思って」

 こんなこと言うなんて、自分でも驚いてる。
 だけどそれくらい、スートのみんなといる時間は、私にとって大事なものになってるのかもしれない。





 その夜。私は部屋で、一人スマホを眺めてた。
 あの動画は、あの後色々編集されて、所々にテロップを入れたり、余計なところをカットしたり、小野くんの作った曲をBGMに使ったりした。
 ただ録画しただけのものより、数段面白くなったと思う。

 それが公開されたのが今から数時間前。だけど、私はまだそれを見ていない。

 だって、大勢の人に向けて配信されてるんだよ。それに自分が出てるなんて、いくら奈津になってるっていっても、やっぱりちょっと恥ずかしい。

 それに、気になるのがコメント欄。
 スートのみんなを見たかったのに、変なのがいるって書かれてたらどうしよう。

「見ようかな。でも、心の準備ができない」

 そんなことを言ったのは、これで何度目だろう。
 その時、スマホが震えて、麗ちゃんから電話がかかってきた。

「亜希、スートの動画見たよ! しっかり映ってた!」

 実は麗ちゃんに事情を話して、動画を見て感想を聞かせてほしいって頼んでたの。

「私、変じゃなかった?」
「変じゃない変じゃない! そんなの、コメント見ればわかるでしょ!」
「そ、それが、まだ見てないの」
「はぁっ!? なにそれ!」

 麗ちゃんは凄く驚いて、それから大きく声を張り上げた。

「いいから早く見て! 凄いことになってるんだよ!」

 えっ? 凄いことって、いったいなに?
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