人気の動画配信グループに男装してダンス教えてます

思わぬ反響

 私が出演した、スートの動画。そのコメント欄には、こんな文字が踊っていた。

『今回出てきた男の子、スートのみんなに負けないくらいカッコよくない?』
『ホントだ! 美少年!』
『誰!? スートに新メンバーとして加入しないかな』

 な、なにこれ!?
 ただ怖がってるだけなのに、どうしてこんな反応になるの?
 そりゃ奈津になった時はちょっとかっこいいかもって思ったけど、いくらなんでも言いすぎだよ!
 しかも、そんなコメントを最初に書いたのは麗ちゃんだった。

「どうしてこんなこと書いたの!?」
「だって亜希の、じゃない、奈津のカッコよさをみんなに教えたかったんだもん。私が何もしなくても、どのみち同じことになったんじゃないの?」

 まさかって思ったけど、この反応を見ると、違うとは言いきれないかも。
 しかもこの動画。スートの動画の中でも、かなり反響が大きなものになってたの。
 それを思い知ったのは、次の日学校に行った時だった。

 教室に入ると、クラスのあちこちで、「あの子見た?」「美少年だったね」と、みんなが奈津のことを話してた。

「な、なんでこんなことに。メンバー以外ががスートの動画に出たこと、今までにもあったのに」
「そもそもスートが人気の理由は、イケメン集団ってことだからね。そこに新しいイケメンが現れたら、みんな注目するんじゃないの。メンバーとの絡みも、見ていて面白かったし」

 麗ちゃんはそう分析するけど、とても信じられないよ。
 そして九重くんが登校してくると、騒ぎはますます大きくなる。

「ねえ、あの子いったい誰なの?」
「うちの学校にはいないよね。どういう知り合い?」
「怖がらせるなって怒るところ、よかったよ!」

 みんなが九重君に何人も次々に声をかける。
 私はそれを、ちょっと離れた所から聞いていた。

「あいつは奈津って言って、隣街に住んでるんだよ。色々あって、俺達全員、ダンスを教えてもらってるんだ」
「ダンスって、この前あげてたやつ? あの子、ダンス得意なの?」
「ああ。俺達よりもずっとな。俺達も練習してるから、上手くなったらまた配信するよ」

 奈津を紹介するだけじゃなく、さりげなくこれからの活動を宣伝する九重くん。
 すると、それを聞いた一人がこんなことを言ってきた。

「またダンスやるの? だったらさ、今度お祭りである、ダンスコンテストに出てみない?」

 それを聞いて思い出す。
 うちの街ではもう少ししたら大きなお祭りがあるんだけど、そこでやるイベントの中に、ダンスコンテストがあるの。
 受付さえすれば誰でも参加できて、会場に作られた大きなステージの上で踊れるっていう、人気イベントだ。
 スートといえば動画配信だけど、踊るところを誰かに撮影してもらって、それを配信すればいい。

「いいな。他の奴らにも話してみるか」

 九重くんも乗り気みたいだし、私も、大きなステージで踊るスートのみんなを見てみたかった。
 だけどその時、誰かが思いがけないことを言い出した。

「それじゃ、奈津くんって子もダンスコンテストに出るの?」
「えっ?」

 これには、九重くんもすぐには返事ができずに固まる。
 固まったのは、私も同じ。ダンスコンテストに出るって、私が?

「それは、本人に聞いてみないとわからないな」
「でも、凄くダンスうまいんでしょ。だったら見てみたいな」
「まあ、そうだな……」

 奈津が人前でダンスをするのは嫌だってこと、九重くんも知ってるから、なんて言おうか困ってる。
 さらに、話はそれだけじゃ終わらなかった。

「スートのみんなにダンス教えてるんでしょ。だったら、みんなで一緒に踊ればいいのに」

 えぇぇっ!?
 い、一緒に踊るって、私がスートのみんなと? 同じステージの上で!?
 九重くんはまた曖昧に言葉を濁すけど、それからチラリと私の方を見る。
 もしかして、奈津に連絡してくれって言いたいのかな?
 でも、私がスートと一緒に同じステージで踊るなんて、いくらなんでもそんなことあるわけないよね?
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