人気の動画配信グループに男装してダンス教えてます

お祭り当日

「とうとうこの日が来ちゃった……」

 何人もの人が行き交う様子を見ながら、緊張気味につぶやく。

 ここは、わたし達の街で開催されているお祭りの会場。
 中央に設置されているステージでは、地元のアマチュア歌手を呼んでのミニコンサートや、子供向けのキャラクターショーといった、たくさんの出し物が行われていた。

 そんな出し物の中でも特に盛り上がるのが、午後から始まるダンスコンテスト。
 私も毎年見に来てたんだけど、今年は、ステージの上で踊る側になっちゃった。
 しかも、スートのみんなと一緒に。

「だ、大丈夫かな? 振り付け忘れたらどうしよう。大失敗してたくさんの人の笑いものになったら……」

 想像しただけでも、心配になってガタガタ震えてくる。
 すると、一緒にいたスートのみんなが一斉に吹き出した。

「これで何度目? ここまで来たんだから、いい加減覚悟決めなよ」
「なんで一番うまい奈津がそんなに緊張してるのさ。練習通りにやればいいんだよ」

 笑ってそう言う、小野くんと日比野くん。
 二人とも、ううん、スートのみんな、わたしと違って少しも緊張した様子はない。

「みんなは緊張しないの?」
「そりゃ少しはするけど、いつも動画配信やってるから、注目されるのには慣れてるからね」

 なるほど。どうりでみんな堂々としてるわけだ。緊張してるのは、私だけ。
 そう思ってたら、今度は九重くんが言う。

「あと、たくさん練習したってのもあるかもな。俺達、最初の頃と比べると、少しはうまくなってるだろ」
「うん。みんな、凄くうまくなった」

 このダンスコンテストに参加するって決めてから、みんなそれまで以上に練習し、上達していった。
 それは、教えていた私が一番よく知っている。

「お前は、そんな俺達に教えてたんだからな。もっと自信持てよ」
「う、うん。そうかな……?」
「だいたいこういうセリフって、普通は教える側が言うもんじゃないか?」
「うっ、確かに……」

 一応、私がみんなの先生みたいなことやってるのに、これじゃあべこべだよ。
 なんだかおかしくてちょっとだけ笑ったら、九重くんもホッとした顔になる。

「ようやく笑ったな。緊張してるより、そっちの方がずっといいぞ。せっかく可愛いんだからな」
「えっ?」

 か、可愛いって、私のこと!?
 急に言われたもんだからドキッとしたけど、九重くんも慌てて言い直す。

「あっ、いや……お、男に可愛いってのは、変だよな。やっぱり、今のはナシだ」
「あっ……そ、そうだね」

 び、びっくりした。
 一瞬、本当は女の子だってことがバレたのかもって思ったけど、そんなわけないか。

 でもよかった。
 今さら私の正体が亜希で、ずっとみんなに隠してたなんて知られたら、どうなるかわからない。
 絶対に、バレないようにしなきゃ。

「お前達、いつまで喋ってるんだ。コンテスト開始前に、メンバー全員で運営事務所に行って受け付けしなきゃいけないんだそ」

 みんなに向かって、五十嵐先輩が言う。
 そうだ。私達、これから運営事務所に行くんだった。

 こうして私達は、揃って事務所に向かっていく。

 不安も緊張もまだまだ無くならないけど、みんなと一緒なら、私だってチャレンジできる。
 並んで歩きながら、心の中でそう呟いていた。
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