人気の動画配信グループに男装してダンス教えてます

恭弥side なんでだよ……

 走り去った奈津。
 それを見た長嶺ってやつは、勝ち誇ったような顔をする。

「あの子、ずっとあなた達に嘘ついてたのよ。酷いでしょ。それだけじゃないわ。ダンス教室でどんなだったか、教えてあげようか?」

 俺が何も言わないのを見て、愉快そうに話を続ける。
 けどそれは、俺にとって凄く不愉快だった。

「そう言って、奈津を脅しでもしたのか?」
「えっ?」
「俺達にバラすぞとでも言って、奈津を脅したのかって聞いてるんだ」
「なっ……!?」

 答えに詰まり目が泳ぐ。その反応だけで、その通りなんだろうってことがわかった。

「わ、私は、みんなのためを思って……」
「俺達のことを思ってるなら、余計なことはするな。もちろん、奈津のことをあれこれ言いふらしたりもすんじゃねえ!」
「ひっ……」

 脅かすように言うと、小さく悲鳴をあげて後ずさる。
 スートのファンって言ってたけど、確実に嫌われただろうな。

「な、なによ。もしかして、知ってたの? あの子が、女の子だってこと?」
「だったらどうだって言うんだよ」

 知っていた。けれど、詳しく説明するのも面倒だ。
 それより、今気になるのは奈津のこと。これ以上、こいつに構ってる暇はなかった。

「これ以上、余計なことはすな。もししたら、ただじゃおかねえからな」
「は、はい……」

 凄みながら脅しつけると、後はもう放っておいて、走り去っった奈津を探す。
 さっきとほとんど同じパターンだ。

 違うのは、奈津の姿を完全に見失ってるってこと。
 闇雲に探しても、見つかるかどうかわからない。なら、どうする?

 少し迷ってから、スマホを取り出し、電話をかける。
 奈津はスマホを持ってないってことになっているけど、亜希なら別だ。

 何度もコール音が鳴るが、一向に出てくれない。
 気づいていないのか。それとも、出たくないのか。

 奈津がどんな気持ちで逃げ出したのかはわからない。けどこんな形で女だってバラされるのは、本意じゃなかったはずだ。
 なら、今はどんな気持ちでいるんだろう。

 焦る中しばらく待ち続けると、ようやく電話が繋がった。

「奈津? いや、亜希か? 今、話できるか?」

 正直、とにかく連絡とろうってことで頭がいっぱいで、何を話そうかなんて考えてなかった。
 それでも、まずは声を聞きたかった。

「…………ごめん」

 小さく一言、泣きそうな声で告げられる。

「なんで謝るんだよ」
「だって、オレ…………私、みんなに嘘をついてた」
「お前が女だってことか? そんなの、とっくに知ってたよ」

 電話の向こうで、息を飲むのがわかった。

「最初は驚いたけどさ、男でも女でも、奈津でも亜希でも、同じ人間ってのに変わりはないだろ。なら、それでいいじゃないか」

 どうしてそんな嘘をついたかは知らない。
 だけど、それで自分を責めたりはしてほしくなかった。

「そんなことより、今どこにいるんだよ。もうすぐコンテストも始まるし、そろそろみんなと合理しようぜ」

 こんなの、全然大したことない。
 そう伝えられたら、すぐにいつもの調子に戻ってくれる。そう思ってた。
 だけど……

「ごめん。私、行けない。もう踊れない」
「えっ?」

 さっきよりも、ずっと泣きそうな声が届く。

「私ね、ダンスから逃げ出したんだ。私が踊っても、バカにされるだけ。そう思ったら怖くなって、全然楽しくなくなった。そんな私に、みんなと一緒に踊る資格なんてない。一緒にいる資格なんてない。コンテストには、私抜きで出て」
「お前、なに言ってるんだ?」

 奈津が何の話をしているのか、全然わからない。
 だけどなんとなく、このままじゃいけないって、直感が告げていた。

「待て、奈津。どういうことかちゃんと話してくれ。いや、嫌なら無理に話さなくていいから、まずはちゃんと会おう」

 とにかく、奈津をこのままにはしておけない。
 なんとか会おうとしたけど、ほしかった返事は返ってこなかった。

「ごめん!」

 叫ぶように謝まられて、唐突に電話が切れる。

「奈津? おい、奈津!」

 名前を呼ぶが、もちろん聞こえるはずがない。
 もう一度電話をかけてみたけど、何度呼び出しても一向に出ない。

「なんでだよ……」

 女だと隠してたこと、気にしないって言ったら、すぐに解決すると思ってた。
 なのに、どうしてこんなことになってるんだよ。

 こんなことになるなら、あの長嶺ってやつから、もっと話を聞いておくべきだったか? そう思ったけどもう遅い。

 どうすればいい? 焦る中、スマホの着信音が鳴る。
 奈津かと思って画面を見ると、表示されたのは、内藤麗からのメッセージだった。
 少し前に俺が奈津の代わりに送ったメッセージの返事だ。

 その内容を読んで、再びメッセージを送る。

『奈津のことで話がある。今から会えるか?』
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