人気の動画配信グループに男装してダンス教えてます

恭弥side 俺達のやること

「恭弥。奈津は一緒じゃないのか?」

 ステージ側にある控え室に着いた時、瞬や他のみんなは既に揃っていた。
 あとは奈津が来て、全員で出番を待つだけ。そう思っているだろう。

「みんな聞いてくれ。大事な話がある」

 そう言うと、いつもの冗談や軽口じゃないって、なんとなくわかってくれたんだろう。みんな、どうしたんだって顔で俺を見る。

 そして言う。奈津のことを。さっき何があったのかを。

「……ちょっと待って。情報量が多すぎるんだけど」

 全部話して、真っ先にそう言ったのは拓真だ。
 けど、混乱してるのはみんな同じ。
 怜央も声をあげる。

「つまり奈津は女の子で恭弥はそれを知ってたの?」
「そうなるけど、今話したいのはそれじゃない。とりあえずそこは受け入れてくれ」
「無茶だよ!」

 俺だって奈津が女だって気づいた時はめちゃめちゃ混乱したから、気持ちはよくわかる。
 だけど今は、そこに時間をとられてる場合じゃないんだよ。

「確かに。今大事なのは、奈津が大丈夫かどうかだな」
「瞬!」
「言っておくが、俺だって混乱してるんだからな。色々隠してたこと、後でしっかり問い詰めさせてもらうぞ」
「ああ」

 瞬がこう言ってくれたことで、拓真や怜央も頭を切り替えたらしい。これでようやく本題に入れる。
 だが、それで話が進むかといえば別問題だ。

「とりあえず、奈津に連絡してみるか?」
「でも恭弥は話の途中で電話を切られて、それから繋がらないんだよね? それって、話したくないってことなのかも。」

怜央の言ってること、悔しいがその通りだと思う。

「その気持ち、ちょっとわかる。本当に落ち込んだり苦しんだりしてる時って、誰にも見られたくないって思うことあるから」

 拓真が、切ない顔で目を伏せる。
 それに、例え電話に出てくれたとしても、今の奈津に何て言えばいいのかわからない。
 みんなもどうすればいいか悩むけど、良い案なんて出てこなくて、だんだんと、沈んだ雰囲気になっていく。
 そんな中、瞬がポツリと言った。

「奈津が出られないなら、俺達だけでコンテストに出ることになる。そっちを話し合った方がいいかもな」
「なっ!?」

 嘘だろ。
 こんな時に、なんでこんなこと言うんだよ!

「おい! 奈津よりコンテストの心配かよ!」
「仕方ないだろ。コンテストを投げ出すわけにはいかないし、時間ももうあまりない」
「けどよ!」

 瞬の言うこともわかる。
 俺達が話している間にコンテストは始まり、最初の出場者がステージに呼ばれていた。
 俺達の出番だって近づいてきてる。
 奈津抜きでどうするか、今すぐ考えなきゃいけないのかもしれない。
 けどそれでも、奈津を切り捨てるみたいで嫌だった。

「俺達が失敗したら、一番後悔するのは奈津かもしれないぞ」

 これには、声をあげることもできずに押し黙る。
 それは、確かにその通りかもしれない。
 すると今度は、怜央が口を開いた。

「奈津ってさ、僕達がうまくなる度に、僕達以上に喜んでくれたじゃない。なのにせっかくの舞台で失敗したって知ったら、きっと悲しむし、自分を責めるかもしれない」

 奈津が悲しむ。
 そう言われると、反論なんてできない。
 コンテストをどうするか。そっちを先に考えた方が、奈津のためにもなるんじゃないか。
 けどそうは思っても、心の底から納得なんてできなかった。
 だがそこで怜央は、さらに言葉を続けた。

「それでも僕は、まずは奈津と話したい。コンテストより、今そっちを考えたい」

 ハッと息を飲んだところで、それを引き継ぐように拓真が言う。

「俺も。さっきは、そっとしておいた方がいいかもって言ったけど、やっぱり、今すぐ奈津と話したいよ。こんな時、何もできないなんて嫌だから」

 俺達の出番は確実に近づいてきてるし、今から奈津と連絡をとっていたら、ダンスをどうするか話し合う時間なんてなくなるかもしれない。
 それでも、怜央も拓真も、ハッキリ言ってくれた。

「お前達、本気か? 元々、俺達スートは四人でやってきた。もしこのまま奈津が来なかったとしても、元に戻るだけだ。それでも、ダンスより奈津を優先する気か?」

 瞬の言葉は、聞きようによっては、実に酷いもの。
 けれど気づく。どうしてわざわざこんな言い方をしているのかに。

「瞬。お前、俺達を焚きつけるために、わざと嫌な言い方しただろ」

 最初は、何を言い出すんだって驚いた。だけど瞬は、苦しい思いをしている誰かを、切り捨てるようなことはしない。

「さあな。お前達全員、奈津よりコンテストを優先しようとしたら、その通りになっていたかもしれないぞ」
「そんなことにはならないって、わかってただろ」

 昔奈津がぶつけられていた、悪意や陰口。今も残る心の傷。
 そんなの聞いて、俺達が方っておけるわけがない。

「恭弥。もう一度、奈津に電話をかけてくれ。それでダメなら、麗って子にも連絡するんだ」
「ああ。ちょっと待ってろ」

 スマホを操作し始めると、拓真も怜央も、覗き込むようにそれを見る。

 奈津に連絡できたとしても、何を話せばいいかなんて、まだわからない。
 それでも、まずは話をしたい。
 俺だけじゃなく、俺達スート全員が同じ気持ちなら、何とかできるような気がした。
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