人気の動画配信グループに男装してダンス教えてます

本人の証明

 次の日。私はひとり、九重くんとの待ち合わせ場所に向かっていた。

 麗ちゃんは、自分もついて行こうかって言ってくれたんだけど、そんなことしたら本当に何から何まで頼りっぱなしになっちゃう。
 私一人でうまくやるんだ。

(バレないよね? 九重くん、私が奥村亜希じゃなく男の子だって、信じてくれるよね)

 今の私の格好は、もちろん変装した男の子の姿。
 これで、別人として九重くんと会うんだ。

 騙すことの罪悪感と、バレないかなっていう緊張感。その二つが合わさって、早くも心臓が破裂しそうなくらいドキドキしてくる。

 そうして向かったのは、例の神社。
 私と麗ちゃんの秘密基地で、九重くんと会った所だ。

 約束してた時間よりちょっと早く着いて待っていると、近くの茂みがガサガサと音を立て、九重くんが姿を現した。

「えっと。あんたが、奥村の親戚なんだよな?」
「う、うん」

 今日の九重くんは、学校とは違って私服姿。
 九重くんの私服はスートの配信で何度か見たことあるけど、直に見るのは初めてだから新鮮だ。

「オレ、亜希の従兄弟で、奥村奈津って言うんだけど……」

 もちろん、奈津って言うのは全くの偽名。私の名前が「アキ」だから、四季に因んで「ナツ」にした。
 他にも、架空の男の子を演じるため、麗ちゃんと一緒に色々考えたんだ。

 私の従兄弟で、歳は同じ。隣町に住んでいて、たまにこっちに遊びに来ることがある。
 性格は、シャイで大人しい。

 最後の性格は、普段の私とそこまで違いはない気がするけど、男の子のフリをするのはただでさえ大変なんだから、せめて性格くらいは普段と近い方がいいってことでこうなった。

「呼び出して悪かったな。わざわざ隣町から来てくれたんだろ?」
「う、ううん。こっちに遊びに来ることは、よくあるから」
「そっか。ところでお前、中学生?」
「えっ? ちゅ、中二」
「へぇ、俺と同じか。悪い、年下かと思ってた」
「お、オレ、背低いから、同い年の人にはよく言われるんだ」

 いくら男装しても、身長はどうしようも無い。
 けど幸い、九重くんはおかしいとは思わなかったみたい。
 あとは、このままバレることなくさっさと終わらせよう。

「ところで、スピーカーのことなんだけど……」
「ああ、これか」

 九重くんが、鞄からスピーカーを取り出す。

「それ、返してもらっていい?」

 これを受け取りさえすれば、用事は終わり。
 なんだけど、そう簡単にはいかなかった。

「もちろん返すよ。ただ念の為、お前が落とした本人か、証拠を見せてもらっていいか?」
「えっ?」

 まだ返してもらえないの!?
 証拠って、そんなこと言われても、どうやって証明すればいいかなんてわからない。

「証拠って、どうすればいいの?」
「簡単だ。ダンスを見せてくれればいい。もちろんできるよな、マスクダンサーさん」
「えぇっ!?」

 た、確かに。落とした人、マスクダンサーだって証明するには、それが一番いいのかも。
 けど、今から踊るの? 九重くんの目の前で?

 今までだって、ダンス動画の配信って形で何人もの人に見られてるけど、それは画面の向こう側の人たち。
 直接誰かの目の前で踊るなんて、麗ちゃん以外だと、どんなに久しぶりかわからない。

「ど、どうしても踊らなきゃダメ? 例えば、マスクダンサーしか知らないようなことを質問して、それに答えるとか?」
「質問って、ダンスを始めたきっかけとかか? そんなの聞いても、正解なんて知らねえぞ」
「だ、だよね……」

 人前で踊るなんて緊張するけど、ここで断るのも変だよね。
 これは、やるしかなさそう。

「わ、わかった」
「おぉっ。踊ってくれるか!」

 なぜか嬉しそうな九重くん。
 まさか、ダンスまで踊ることになるとは思わなかったけど、こうなったら仕方ない。

 一度スピーカーを受け取って、スマホに繋いで、準備完了。
 ふーっと大きく息を吐いて構えると、スピーカーから、聞き慣れた音楽が聞こえてきた。

「いくよ」

 音に合わせて、手足を、体全体を動かし、大きく躍動させる。
 何度も繰り返し練習してきた動き。九重くんに見られている緊張はあったけど、それでも体は勝手に動いてくれた。

 チラリと九重くんを見ると、真剣な顔で見ている。これは、最後まで気が抜けない。
 一番盛り上がるサビの部分を終え、いよいよラスト。
 バシッとポーズを決めて、これで終わりだ。

 曲が終わっても、少しの間ポーズを維持していたけど、やがてそれを解いて九重くんを見る。

 これで、私がマスクダンサーだって信じてもらえたかな?
 すると九重くん、楽しそうに、何度もパチパチと大きく手を叩き出した。

「凄いな。動画で見てもうまいなって思ってたけど、直接見ると迫力が違う!」
「えっ? あ、ありがとう……」

 こんなにも褒められるなんて思わなかったから、私は少しの間、呆気にとられてキョトンとしていた。
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