雨声~形のないラブレター
「おはようございまーす」
「紫陽花ちゃん、おはよう。今日は和子はんお休みやさかい」
「はーい」
「今日は芸大に通う山下 舞香ちゃん(21歳)って子が入ってくれてる」
「芸大って、京都芸大?」
「そうそう。舞台演出?プロデュースみたいなのを学んでるって言うたかな。普段は劇団でバイトしてるんやけど、今日みたいに人手足らへん時にお願いすると、単発で入ってくれるんや」
「へぇ~、仲良うできるかなぁ」
「大丈夫。気さくで優しい子ぉやさかい」
姉の実椿の代わりにバイトに入るようになって早3日。
バイト入りの挨拶は時間にかかわらず『おはようございます』。
飲食店に限らず、接客業あるあるだと健兄が教えてくれた。
大型店舗ではないから、元々スタッフの人数もそれほど多くない。
少数精鋭で、常にギリギリのスタッフで回しているらしい。
学校から直行でバイト入りした紫陽花は、制服に着替えてホールへと向かった。
「おはようございます。橘 紫陽花です。宜しくお願いします」
「おはようございます。山下 舞香です、よろしゅうね。……実椿さんの妹さんなんやって?」
「あ、はい。姉がいつもお世話になってます」
「もう臨月かぁ。ホント、早いなぁ~」
単発でバイトに入っているから、月日が経つのが早いと舞香さんは言う。
前回バイトに入った時は、大きなお腹に手を当てて、胎動を感じさせて貰っただなんて懐かしそうに話す。