雨声~形のないラブレター
6月28日の放課後。
「今日もバイトなん?!」
「……うん」
「明日から期末試験やで?」
「明日からは休みにして貰うてる」
勉強が得意というわけじゃないけれど、今日は和子さんがお休みの曜日だから少し人手不足。
健兄は『学業優先で』と言ってくれるけれど、私がバイトをしたいというのが本音。
だってじゃないと、彼に会う口実がなくなる。
梅雨時期の今は晴天じゃない限り、毎日カフェに来ると分かったから。
少しでも彼に会う確率が高くなるなら、数時間くらい勉強より優先しても…。
「そないに会いたいんや?」
帰り支度をしている私の顔を覗き込んだ里穂が、揶揄うように聞いてくる。
小学校からの仲だから、何でもお見通しだ。
私が恋バナをしたのも初めてだし、こんな風に誰かを気に留めるのも初めてだから。
「見てみたーい!今日、こっそりバイト先のカフェに行ってみよかな」
「止めてや!」
「何で~?ええやん、ちゃんとお金払うし」
「そういう問題やないっ」
里穂が言うと、本気に聞こえて来る。
「どれほどのイケメンなのか、余計に見たなる~っ」
「ホント、来いひんでよねっ!」
「ほな、こっそり撮って送って」
「それ盗撮やっ!」
「バレへんようにこっそり撮ったらいけるで」
「いやいや、全然いけるとちゃうから」
一度言い出したら聞かない性格の里穂。
どうにか気を逸らさないと、本当にカフェに来そうで怖い。
「愛都くんから連絡あらへんの?」
「あるにはあったけど、あれ絶対反省してへん」
里穂との約束を忘れて、男友達と遊びに行ったらしく。
それが原因で別れた……みたいになってる。
いい加減、許してあげればいいのに。
「あと3回謝って来たら、許したる」
「もう素直やないなぁ」