雨声~形のないラブレター

2年かけて口説き落とし、2年かけて愛を育み、2年前に結婚。
そして、そんな2人はもうじき3人家族になる予定だ。

臨月の実椿の代わりにカフェでアルバイトをすることになった紫陽花は、高校から直行してカフェ『éclair』へとやって来たのだ。

「紫陽花ちゃん、制服はテーブルの上やで」
「はーい」
「着替えが終わったら声かけて」
「はーい」

健一郎は珈琲豆を焙煎しながら、紫陽花に事務所へと繋がるドアを目配せした。

白いYシャツに黒いベストとタイトスカート。
本格的なカフェ仕様の制服だ。

鏡で乱れているところはないかチェックしていると、鏡の横にある貼り紙に気付く。

『身だしなみチェックシート』と書かれた紙。
頭髪、髭、爪、服装、匂い、メイク、アクセサリー、体調など、全部で20項目もある。

短期で書店のアルバイト経験がある紫陽花だが、『飲食店』というカテゴリーは初めて。
お客様に不快感を与えないためにも、今一度鏡で全身をチェックする。



「……ざっと、今日のとこはこないな感じでお願いしたいんやけど」

ホールスタッフをメインに、人手が足りない時にキッチン(洗い物など)を担当することとなった紫陽花。
健一郎から一通りの説明を受け、必要なところをメモした。

< 3 / 55 >

この作品をシェア

pagetop