雨声~形のないラブレター

視線が上げられない。

思い込んだ私が悪いけれど、悪気があってしたわけじゃない。
あの時は本当に良かれと思ってした。

姉と儚げな雰囲気が凄く似ていたから、ついつい勝手に決めつけてしまった。

彼の心が、何らかの負荷によって傷ついている気がして。

「話せないわけじゃないけど、出来れば話したくない」
「……」
「だから、話しかけないで」

急に声のトーンが下がった。
威嚇するみたいな声音だ。

「何で、雨の日なんですか?!」

改札口へと歩き出し彼。
そんな彼の背中に話しかけていた。

私の声に反応するように足を止め、ゆっくりと振り返った彼。

「親しくもないのに、言いたくない」
「っ……」

完全に拒絶された。
気軽に話しかけるな、とでも言いたいのだろう。

またやらかしてしまった。

恋愛経験もないし、男友達もいないから。
こういう会話ですらまともにできない。

謝ったそばからまた気分を害してしまう発言をするだなんて。
本当にアホすぎる。

溜息交じりに視線を足下に落とした、その時。

「もう少し親しくなったら、教えてあげるよ」
「……ふぇっ?」

フッと微かに笑った。
えっ……。
初めて笑った顔、見たんじゃない?!!

「あのっ!……お名前はなんて言うんですかっ?!」
「人の名前を聞く時は、まずは自分から名乗るものなんじゃないの?」

スタスタと歩く彼を追いかけ、懐いた子犬ように話しかける。
だって彼の背中が、『バイトに遅れるよ?』と言ってるみたいに感じたんだもん。

もしかしなくても、向かってる先は……カフェですよね?
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