雨声~形のないラブレター
(はる)視点)

高校を休学して、母方の祖父の家がある田舎街へとやって来た。

本当は、もう高校なんてどうでもよかったんだけど。
両親に説得されて、渋々休学届を出した。

山奥にある長閑な街。
ちょっとした観光地でもあるから、平日でも人気が結構ある。

誰も知らない所に行きたかった。
けれど、それが現実的じゃないことに気付かされ、ただただ、一日また一日と過ぎ去ってゆくのをじっと受け入れるだけ。


幼い頃から音楽が好きで。
小学生の頃から自分で作詞作曲するほど、音楽と自然に触れ合えていた。

ピアノコンクールで毎年のように賞を取り、高校2年の夏に有名音楽プロデューサーからスカウトされた。

『シンガーソングライターでやっていく気ない?』

歌うことも演奏することも好きだったから、“メジャーデビュー”できるかもしれないという事が凄く嬉しくて。
一つ返事でスカウトを受けることにした。

それが、俺の人生でピークだったとも知らずに。

デビューに向け、数か月かけて準備している矢先。
喉に違和感を覚えた。

初めは風邪かな?と思うくらいの声枯れだった。
水分をいっぱいとって休養したらまた元に戻ると思っていた。

けれど、1週間が経ち、2週間が経っても声が元に戻ることはなかった。

それどころか、口内炎がずっと治らず、耳も詰まったようになって来て。
疲労や中耳炎、ウイルスによる病気が原因かと思って、母親と共に病院を訪れた。

『紹介状を書きますので、もう少し詳しい検査をして下さい』

都内にある有名な病院を紹介され、風邪や中耳炎からくる症状ではないと説明された。

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