雨声~形のないラブレター
都内でも有数の大病院。
著名人が入院することでも有名で、最新機器が揃っていると言われる病院だ。
その病院で精密検査をした俺に突きつけられた病名は『咽頭がんの初期(ステージ2)』というもの。
男性に多い病だけれど、飲酒やたばこが原因によるものが多いという説明。
18歳の俺は、酒もたばこもしてないのに。
何故、俺なんだ……?
半年後にメジャーデビューを控えていたのに、ある日突然、目の前が真っ暗になった。
声が出し辛くなった時に、もっと早くに病院を訪れていればよかったのか。
毎日のように曲を作るために歌っていたのが悪かったのか。
思い当たる節が多すぎて、頭の中がぐちゃぐちゃで。
両親に当たっても仕方ないとは分かってるのに、行き場のない感情が堰を切ったように溢れ出した。
比較的進行の早い病だという事と。
今ならまだ声帯を温存して放射線や薬物療法で治療が可能だという事。
けれど、抗がん剤だということには変わりがなくて。
根治を目的として行うとしても、100%ではないという。
再発する恐れもあるし、転移する可能性もある。
そもそも声帯温存と言っても、がん治療なわけだから、何も変わらないとは言い切れない。
早急に治療を開始した方がいいのは分かってる。
リンパ節に転移したら、根治は難しくなることも。
それでも、人生たったの18年しか生きて来てない俺にとっては、簡単に決断できる話ではなかった。