雨声~形のないラブレター
日常と非日常が交差する中。
雨の日限定でピアノを演奏する。
それも、『誰かが足を止めて聴き入ったら終了』という、おかしなルールを設けて。
誰かと音を共有したいわけじゃない。
自分だけの世界が欲しかった。
それが、とてつもなく自己中な考えだというのは分かり切ってる。
だってストリートピアノは、誰もが自由に出入りできる公共の場に設置されたものだ。
音楽を通じて人との繋がりを生み出すことが趣旨とされているのだから。
弾くのが自由なわけだから、止めるのも自由だということ。
そんな俺に『好き』だと彼女は言った。
それも、顔を真っ赤にして。
告白されたことは何度かある。
だけど、彼女が言う『好き』は俺のことではなくて、俺の弾くピアノの音色らしい。
自己中の自己満足で弾くような音色なのに。
音のない音色を奏でる彼女と、行き場のない感情を押し込めている俺とでは、あまりにもかけ離れすぎていた。
『何回か、聞いたくらいで』
彼女を突き放したのは俺なのに。
ぱたりとバイトに現れなくなって、言い過ぎたかな?と少し反省した。
毎日のようにカフェに通っているのだから、カフェの中で待てばいいのに。
何となく、カフェのスタッフに見られたくなくて、彼女が電車から降りてくるホームで待つことにした。
電車から降りて来た彼女は、待ち伏せする俺を見て、当然のように驚いた。
そんな彼女の腕を掴んで、構内の一角へと向かう。