雨声~形のないラブレター

華奢な腕。
小柄な体。

男子ではないのだから、当たり前なんだけど。
男子校に通っていた俺にとっては、手をつなぐだけでもちょっぴりドキドキした。

本当は誰とも会話したくない。
声を出せば出すほど、病気が進行してしまうんじゃないかと思えて。

だから、突如胸の中に湧いて出て来たこの感情が何なのか、確かめたかった。


カフェでのバイトは、出産を控えている姉の代わりでしているという。
そもそもあのカフェは、その姉夫婦が経営しているらしくて、簡単に止めれるものじゃないらしい。

それに俺へと向けた手話は、聴覚障害の姉との会話に使っている日常的なものらしくて。
そのお姉さんと俺の雰囲気が似ていたからだと。

彼女の優しさが、手話から伝わって来たのはそのお陰だったのだと知った。

幼い頃から声にならない声を持つ姉との会話。
その一つ一つに沢山の葛藤や苦しみも織り交ざっていただろう。

『何で、雨の日なんですか?!』

それを教えたら、きっと両親や友達と同じように哀れんだ眼差しを向けるんだろうな。
だけど彼女からは他の人にはない、ちょっとだけ違う雰囲気を感じる。

何でわざわざ雨の日なの?と怪訝そうな顔をするのではなくて。
雨の日がいいんですね♪と、梅雨時期の鬱陶しい雨が、音色のシャワーのように感じてるのかもしれないと……。

< 37 / 55 >

この作品をシェア

pagetop