雨声~形のないラブレター
「それと、知ってるかもだけど、スタッフを紹介するなぁ。ホールスタッフでパートの隅田 和子さん(47歳)とキッチンスタッフで社員の小川 清くん(27歳)。土日は他にアルバイトの子ぉやパートはんもおるんやけど、追々紹介するなぁ」
「はい。橘 紫陽花です」
「実椿はんの妹はんか。ヨロシクね」
「宜しゅうおたのもうしますっ」
「紫陽花ちゃん、よろしゅう。実椿ちゃんに会いに来た時になんべんか顔を合わしてるんやけど、憶えてる?」
「はいっ、憶えてます!姉がいつもお世話になってます」
紫陽花はにっこりと微笑んで、和子に丁寧にお辞儀した。
オーダー取りができない実椿は、基本カウンターの中の仕事をしている。
軽食を作ったり、食器を洗ったりして。
そんな実椿を娘のように可愛がっている和子は、もう一人娘ができたみたいで嬉しくなった。
*
「和子さん。あのお客様、もう1時間以上ずっとあぁしてますけど」
「……」
紫陽花はペーパーナプキンなどを補充している和子にそっと声をかけた。
けれど和子は無言のまま、顔を横に振る。
お客様のことを詮索する行為は御法度だからだ。
カフェで寛ぐためにお金を払っている。
例え一口も口にしなくても、迷惑行為でない以上、介入することはできない。