雨声~形のないラブレター
(暖視点)

7月7日、七夕。

世界中の人々は年に一度のこの日が晴れることを願っている。
彦星と織姫が年に一日だけ会える日だから。

けれど、今日は生憎の天気。

朝からパラパラと降っていた雨が、昼過ぎ頃から結構な雨脚で降っている。


16時過ぎ。
電車から降りて来た彼女が、ホームで待つ俺を見つけて笑顔で手を振る。

たった2週間。
それも、彼女と話すようになってまだ数日だというのに。

昔から知っている近所の子みたいな無邪気な顔で、俺の元へと駆けて来た。

(はる)さん、今日も雨ですよ♪」

梅雨が明けてないのだから、降水確率が高くても当たり前だけど。
さすがに今日は七夕だよ。

世の中の人々が、晴れを待ち望んでる日なのに。

「試験の結果は?」
「……ご想像にお任せします」
「プッ、……赤点があったの?」
「ブッブ~ッ、さすがに赤点はなかったです!平均点より、ちょい上くらい?」
「バイトしてなかったら、もう少し良かったんじゃない?」
「どうでしょうね。そんなに変わらなかったと思いますけど」

勉強は可もなく不可もなくといった感じらしい。
今回は殆ど試験勉強をしてなかったから、前回よりは少し順位が下がったみたいだけど。
普段から中の上くらいの成績らしい。

名前や年齢は教えたし、彼女からも教えて貰った。

紫陽花と書いて『しょうか』と読む。
名は体を表すというが、本当にそうだと思った。

一見華やかな大輪のように見えるけれど。
実際は愛らしく可憐で優雅な気品を持つ小さな花。

周りを自分色に染めるのか。
周りの色に自分が染まるのか、分からないが。

じめじめとした梅雨時期に静かに咲く、最も美しい花だ。
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