雨声~形のないラブレター
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カフェでバイトするようになって2週間。
あっという間に過ぎ去った日々の中で出会った美男子は、ミステリアスという言葉がマッチするほど謎めいていて。

雰囲気からイメージできないハスキーな声も。
最初の冷たい態度とは違って、意外と紳士的で優しいことも分かった。

憂いた眼差しは相変わらずだけど。
たまに零す笑顔がキュートに思えるほど、彼に夢中になっていた。


7月7日、七夕の夜。

バイトが終わるのを待っていてくれた彼とコンコース内をゆっくりと歩く。

本当は健兄が自宅へ送ってくれることになってるのだけれど、今日だけはちょっとだけ我が儘を言った。

『彼が家まで送ってくれるみたい』

本当はそんな話になってないんだけど、心配性の健兄を説得するのはこれがベストだと思ったから。


改札を抜け、ホームへと向かう。

何だろう?
何か話したいことでもあるのかな?

ホームにあるベンチに腰を下ろす。
それほど強くないが、時折吹く風の影響で足下がスーッとした冷気に包まれる。

「言ってなかったことがあって」
「……はい」
「来週末に、東京に戻ることにした」
「……え」
「祖父の家に来てるって話はしたよね」
「……はい」
「本当なら今高校3年で、都内の男子校に通ってたんだ」
「……そうやったんですね」
「4月が誕生日だからすでに18歳だけど、1カ月前にちょっと大きな病気が判明して、休学届を出したんだ」
「……」
「だから、治療を始める前に、ちょっとだけ自分の時間が欲しくて」

突然の話で、思うように脳が働かない。

関西特有の方言を話さないから、関東の人かな?とは思ってたけど。
あえてプライベートなことには触れないでいるのが暗黙の了解だと思っていたから。
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