雨声~形のないラブレター

暖さんと出会ってあっという間に半年が過ぎ、クリスマスを迎えようとしていた。

抗がん剤治療も放射線治療も順調らしくて。
最近、少しずつ食欲が出てきたらしい。


『高校卒業後の進路は決めてるの?』

ある日、送られて来たメッセージに、躊躇っている感情が見透かされている気がした。

『福祉系の大学に進学できれば…』

本当は『手話通訳士になりたい』と答えたかった。
けれどその道は物凄くハードルが高く、狭き門。

実際、手話だけで食べて行くのは不可能に近い。
だってここは田舎で、需要自体が極端に少ないから。

だから、社会福祉士の資格を取って、その上で手話通訳もしていけたらいいなぁという程度の夢。
まだまだ現実味もないし、漠然としたものだけれど。

姉や暖さんが諦めなかったように、私にもできる気がして。
諦めずに努力し続けたら、いつかは叶えられるんじゃないかと。

『暖さんは、メジャーデビューして歌手ですか?』
『いや、それはもういいかなと思ってる』
『何でですか?』
『作るだけでも凄いことだと分かったから』

彼が言うと本当に言葉に重みがある。

1曲作るために必要な体力も知識も才能も。
私には一生かかっても手にできないものだから。


今は、『未来』を見据えて前向きになってくれているだけで、不安が吹き飛んでゆく。
治療開始直後は、生きることに絶望するくらい自暴自棄になって、荒れていた時期があったから。

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