雨声~形のないラブレター

桜が散り始めた頃。

『復学したよ』

たった5文字のメッセージなのに。
スマホを手にして涙が溢れ出した。

遠い未来の話はしたことがあったけれど。
近い未来の話は全くしてなかったから。

今年も休学を延長するとばかり思っていた。

治療自体は順調だと言ってたが、学校に通えるほど回復したのかは分からなくて。
このままずるずると退学するんじゃないかと思えたから。

彼からの新たな一歩を知らせる言葉に、心の震えが止まらない。

『おめでとう、で合ってるのかな。元気そうで何よりです!』



「紫陽花、東京の大学に進学するん?」
「まだ決めてへんし、そもそも受かるか分からへん」

勉強は得意じゃない。
だけど、あっという間に高校3年になって。
もう進路を決める時期に来ている。

親友の里穂は美容師になると決めていて、美容師専門学校を志望している。
だから、福祉系の大学に進学したい私とは、歩む道が違う。
卒業しても親友には変わりないから。

進路指導室から借りて来た東京の福祉大学の過去問集を見ている紫陽花。

彼に『東京の大学に進学する』と言ったら、迷惑だろうか。

付き合っているわけじゃない。
『好き』と告白はしたけれど、その後、彼からも私からもそういう会話は持ち出してないから。

気軽に話せる友達。
強いて言うなら、彦星と織姫みたいに。
遠くに離れているけれど、お互いを大事に思ってる、そんな関係性。


きっと彼は、治療と作曲のことしか考えてないだろうな。
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