雨声~形のないラブレター

7月15日、金曜日の放課後。

いつものように学校から直行でバイト先へと向かう。
3日ほど前に梅雨明けし、盆地のこの地域は、恐ろしいほどに蒸し暑い。

電車内は冷房がガンガンにつけられていて、たった2駅しか乗らない電車なのに、天国かと思うほどその短い時間を堪能する紫陽花。

夏休みまであと数日。
夏休みになったらバイトを数日休んで、東京に行こうかと考えている。

バイト代が欲しくて始めたわけじゃない。
欲しいものがあるわけでも、推し活してるわけでもないから、バイト代の使い道が殆どなくて。
この1年で貯めたバイト代は、軽く20万円を超えた。

だけどここ半月ほど、暖さんから連絡がない。
体調を崩してるんじゃないかと心配になる。

しつこくメッセージを送るのもどうかと思うし。
電話はかけれない。

彼から連絡が来るのを、ずっと待ち侘びていた。



「おはようございまーす」
「おはようさん。ようほめきまんなぁ」

“ほめく”とは、この地域の方言で、本格的な夏に突入し、蒸し暑いことを意味している。
“ほめいて、ほめいてかなんなぁ”とも言うくらい、この時期になると無意識に口から出てくる言葉だ。

健兄が仕入れた珈琲豆を焙煎しているのだ。

珈琲の種類、アイスかホットかによっても焙煎具合を変えているらしくて。
暗号みたいな文字が焙煎された豆が入っている瓶に貼られている。

「雨降らへんかなぁ」
「えらい晴れてますよ」
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